前回の続きです。
今回は、IBの「未来のコンピテンシー」の初期セットのうち、生徒の主体性について説明します。

生徒の主体性(Student agency)
IB(国際バカロレア)の行った「未来のコンピテンシー」(Competencies in the future)という研究の中で、生徒の主体性(Student agency)についての報告書が出されています。以下では、その報告書に書かれている定義と結論部分(の一部)を中心に、簡単にご紹介します。(原文の英語を私(藤本)が和訳しました。)
出典:
Brandt, W.C. (2024). Measuring student success skills: A review of the literature on student agency. National Center for the Improvement of Educational Assessment.
https://www.ibo.org/globalassets/new-structure/research/pdfs/student-agency-final-report.pdf
「生徒の主体性」の定義
「生徒の主体性とは、自身の思考プロセス、モチベーションおよび行動をコントロールする(exercise control)能力を指します。
バンデューラ(2006)によれば、個人の主体性には、数多くの下位スキルを表す4つの核心的特性(core properties)があります。
意図性(intentionality)とは、個人が望ましい将来の状態を想像し、目標や成果を設定し、それを達成するための行動計画(course of action)を立案する能力を指します。
先見性(forethought)とは、将来の出来事を予測し、計画を立て、調整する能力です。これにより、個人は目標を設定し、自らの行動がもたらす可能性のある結果を予測し、目的を持って行動をとることが可能となります。先見性を発揮することは、個人が計画を立案し、優先順位を見直し(reorder)、目標達成に向けて調整する過程において、方向性、一貫性(coherence)、そして意味を与えるものです。」(P5)
自己調整(self-regulation)とは、個人が目標を達成するために自らの行動、思考、感情を制御する(control)プロセスです。個人が思考や行動を監視し(monitor)、感情を管理し(manage)、代替案を検討し(invite alternative possibilities)、意図的にかつバランスの取れた判断をもって行動できるとき、主体性を発揮していると言えます。特に、動機付けは自己調整において重要な役割を果たします。それは自己調整プロセスを開始し持続させる原動力(driving force)となるのです。
自己省察(self-reflectiveness)とは、自らの思考、行動、モチベーションを意識的に考察する能力を指します。これにより、個人は自身の能力(capabilities)や効果性(effectiveness)、そして行動の意味を評価することが可能となります。自己省察を通じて、個人は自らの行動に対する洞察(insight)を得て、目標に向かって進む中で意思決定や行動を改善するための調整を行う(make adjustments)ことができるのです。
報告書の結論部分からの一部抜粋
「本論文の目的は、学生の主体性を定義し記述すること、その発達過程および効果的な教授・学習方法に関する研究知見を統合すること、ならびに評価設計と活用への示唆について考察することでした。全体として、研究結果は学生の主体性が意図性、先見性、自己調整、自己省察という四つの核心的要素からなる複雑な技能であることを示唆しています(図1参照)。学生の主体性に関連する技能、態度、傾向性は教育的に可塑性が高く、明示的に教授・学習することが可能です。
生徒の主体性を支援する様々な介入策や指導実践が理論化されています。研究では一般的に、これらの指導的介入と、自己効力感(self-efficacy)、モチベーション、学業成績、学習への前向きな姿勢といった生徒の主体性に関連する成果との間に、肯定的な相関関係が示されています。とはいえ、介入策が特に生徒の主体性に及ぼす影響を検証した研究は少なく、さらなる研究が明らかに必要です。
研究によれば、主体性は領域横断的および領域特異的な方法で様々な領域に現れることが示唆されています。生徒は、目標設定、計画立案、進捗管理、挫折への適応(adapt to setbacks)、振り返り、学習経験の評価といった領域横断的活動に取り組むことで主体性を育みます。しかし、領域特異的な知識は、生徒の学習環境やその他の個人的・社会的要因と相互作用し、生徒の主体性を媒介します。また、生徒の主体性がどのように異なる形で現れるかを完全に理解するためには、さらなる研究が必要です。」(P31-32)
その他
「世界経済フォーラム(2023年)は、生徒の主体性に関連する重要なスキルである「強靭性(resilience)、柔軟性、機敏さ(agility)」ならびに「モチベーションと自己認識」といった能力を、労働市場(workforce)での成功に不可欠であると強調しています。」
所感
生徒の主体性、非常に重要ですよね。主体性をどう引き出し、伸ばしていくかが、教育の鍵だと思います。
生徒の主体性は教育的に可塑性が高く、明示的に教授・学習することが可能とのことです。「生徒は、目標設定、計画立案、進捗管理、挫折への適応、振り返り、学習経験の評価といった領域横断的活動に取り組むことで主体性を育みます。」と書かれています。誰か他の人に目標や計画をつくってもらうのではなく、自分で目標や計画をつくり、進めていくという経験が重要ということですね。
次回に続きます。
元塾 藤本豪


