前回の続きです。
今回は、文化的意識と表現の能力(Cultural awareness and expression competence)についてお話しします。

文化的意識と表現の能力
文化的意識と表現の能力(Cultural awareness and expression competence)について、EUの「生涯学習のためのキー・コンピテンシー」では、次のとおり定められています。(欧州理事会の勧告(2018/C 189/01)の別紙の内容から一部を抜き出して紹介します。)
「文化的認識と表現に関する能力とは、異なる文化圏において、また様々な芸術やその他の文化的形態を通じて、アイディアや意味が創造的に表現され伝達される方法を理解し尊重することを含みます。また、多様な方法や状況において、自身の考えや社会における立場・役割に対する認識を理解し、発展させ、表現することに関与することを含みます。」
このコンピテンシーに関連する必須の知識、技能、および態度
「この能力には、地域・国家・地域圏・欧州・世界の文化と表現(言語、歴史上残されたもの(heritage)、伝統、文化製品を含む)に関する知識、ならびに、これらの表現が相互に、および個人の思想に対して影響を与え得る仕組みの理解が求められます。具体的には、文字・印刷・デジタル媒体、演劇、映画、舞踊、ゲーム、美術・デザイン、音楽、儀式、建築、およびそれらの融合形態において、創作者・参加者・観客間で思想が伝達される多様な方法の理解を含みます。文化の多様性にあふれる世界における自身のアイデンティティ形成と文化的遺産への理解、そして芸術やその他の文化的形態が世界を観察し形づくる手段となり得ることを理解することが求められます。
スキルとしては、共感をもって比喩的(figurative)・抽象的な概念、経験、感情を表現し解釈する能力、そして多様な芸術や文化的形態においてこれを実践する能力が含まれます。また、芸術やその他の文化的形態を通じて、個人的、社会的、あるいは商業的価値(commercial value)の機会を見出し実現する能力、個人として、また集団として創造的プロセスに取り組む能力も含まれます。
文化的表現の多様性に対して開かれた態度(open attitude)と敬意を持ち、また、知的・文化的所有権に対して倫理的かつ責任あるアプローチを取ることが重要です。積極的な姿勢には、世界に対する好奇心、新たな可能性を想像する開放性、そして文化的体験に参加する意欲も含まれます。」
所感
「地域・国家・地域圏・欧州・世界の文化と表現(言語、歴史上残されたもの(heritage)、伝統、文化製品を含む)に関する知識、ならびに、これらの表現が相互に、および個人の思想に対して影響を与え得る仕組みの理解」という部分は、異文化理解に関する内容を多く含んでいると思いますが、全体としてはむしろ、自分自身の概念、経験、感情を文化(芸術など)のかたちで表現することと、それによるアイデンティティの形成に重点を置いていると理解しました。
このように文化活動自体の能力を主要コンピテンシーの一つとして取り上げる例は、世界的に珍しいのではと思います(異文化理解は、多くの国において主要コンピテンシーとして挙げられていますが。)。途中、「商業的価値の機会」という言葉が出てきますが、さほど目立つ位置づけではありません。念のためリスボン戦略の原文を確認しましたが、リスボン戦略にも、文化や芸術をビジネスの手段や契機として捉えるような記述は見当たりません。このコンピテンシーは、リスボン戦略を実現するものというよりは、EUの基本的な機能の一つである文化振興(「欧州連合の機能に関する条約(TFEU)」第167条)
次回に続きます。
元塾 藤本豪


