前回の続きです。

今回は、IBの「未来のコンピテンシー」の初期セットのうち、異文化理解について説明します。

異文化理解(Intercultural understanding)

IB(国際バカロレア)の行った「未来のコンピテンシー」(Competencies in the future)という研究の中で、異文化理解(Intercultural understanding)についての報告書が出されています。以下では、その報告書に書かれている定義と結論部分(の一部)を中心に、簡単にご紹介します。(原文の英語を私(藤本)が和訳しました。)

出典:

Brandt, W. (2024). National Center for the Improvement of Educational Assessment.

https://www.ibo.org/globalassets/new-structure/research/pdfs/2024-intercultural-understanding-report-eng.pdf

「異文化理解」の定義

「異文化理解とは、個人が異なる文化間における動的な立場、慣習(practices)、力関係(power relationships)について認識し理解することを含みます。異文化尊重(intercultural appreciation)とは、共感、敬意、寛容さ(open-mindedness)といった感情的な資質(affective qualities)を含み、これにより個人は様々な文化に属する個人や集団の多様な視点、慣習、貢献を認識し評価することが可能となります。内省(reflection)には、他文化に関連する自身の前提、バイアス、経験を批判的に評価するスキルが含まれます。これは文化的多様性に対する理解と評価を深めることを目的としています。さらに、異文化理解には、文化的アイデンティティ、行動、影響が固定されたものではないことを認識することが含まれます。むしろ、それらは「動的な立場、実践、力関係」によって絶えず形作られているのです(Habecon, 2014)。」(4頁)

報告書の結論部分

「異文化理解は、グローバルに相互接続された現代社会において非常に重要な(crucial)能力(competency)です。これは多次元的な概念であり、(a)文化の類似点と相違点に関する知識と理解(appreciation)、(b)他者との関わりにおける自文化を批判的に省察する(critically reflecting)スキルを表しています。異文化理解および関連する能力に関する定義や発達モデルは研究文献に豊富に存在しますが、発達過程や指導・評価実践を裏付ける強力な実証的証拠は乏しい状況です。異文化理解の中核要素は可塑性が高いと広く認識されているものの、初等教育から中等教育までの教育段階における教育原理を裏付ける確固たる実証研究はまだ確立されていません。

とはいえ、本報告書で述べる多くの指導・評価実践には強固な理論的基盤が存在します。さらに、近年の複数の文献レビューでは、異文化理解の発達に関する数十年にわたる主に理論的な研究を統合しています(例:Bagwe & Haskolar, 2020; Elias & Mansouri, 2020; Liu, 2019; Su, 2023; Zhang & Zhou, 2019)。これらのレビューは、知識のギャップに対処し、今後の研究課題を示す明確な方向性を提供しています。

理論はまた、学校における異文化理解の指導を支援する実践者向けリソースの設計と実施にも貢献しています。世界中の政府や組織は、学校における正式な指導と評価を導くための、学びの連続体(learning continua)、カリキュラムガイド、指導リソースを開発してきました。サービスラーニング、留学、テクノロジーに基づくツールに関する数十年にわたる研究は、これらおよび類似の実践が、異文化理解に表れる知識、スキル、態度の育成に有望である可能性を示唆しています。」(28頁)

その他

「今日のグローバル化した世界では、異文化理解は、多様な人々間の敬意と生産的な交流を促進する重要なスキルです。世界経済フォーラムは、21 世紀において個人や組織が成功するために不可欠なスキルとして、異文化スキルとグローバルな考え方(global mindset)を強調しています(Reuil、2022)。これらのスキルは、リモートワーク(remote jobs)によって異文化間および国際的な協力やパートナーシップの可能性が高まった、ポストコロナの時代(post-COVID)において特に重要となります。」(3頁)

「異文化能力を備えた個人は、以下の特徴を示します(Odina, 1996)。

  • 文化の多様性に対して前向きな姿勢を持ち、
  • 他者の伝統や信念を理解しようと努め(seek to understand)、
  • 曖昧な異文化状況から生じる緊張を認識し調整(negotiate)し、
  • 複数の文化が接触する際に、効果的なコミュニケーションを促進するため言語的・非言語的コミュニケーションスキルを応用し、
  • 自身の文化を他文化との関係において理解し批判的に評価するために行動し内省する。」(5頁)

所感

定義と関連する部分については、「内省には、他文化に関連する自身の前提、バイアス、経験を批判的に評価するスキルが含まれます。これは文化的多様性に対する理解と評価を深めることを目的としています。」という部分が特に重要だと思いました。異文化理解のためには、こういった内省が必要であり、おそらくこれが異文化理解のスキルの核心部分といえるのではないでしょうか。

「世界経済フォーラムは、21 世紀において個人や組織が成功するために非常に重要な(crucial)スキルとして、異文化スキルとグローバルな考え方(global mindset)を強調しています(Reuil、2022)。」と書かれています。さらに、「これらのスキルは、リモートワークによって異文化間および国際的な協力やパートナーシップの可能性が高まった、ポストコロナの時代(post-COVID)において特に重要となります。」という部分が、個人的に特に印象的でした。新型コロナウィルスが蔓延した時期にリモートワークが一般的になり、そのため地域や国境を超えたやりとりが格段にやりやすくなって、それらの機会が増え、異文化スキルとグローバルな考え方がますます重要になったということですね。

次回に続きます。

元塾 藤本豪