前回の続きです。

今回は、IBの「未来のコンピテンシー」の初期セットのうち、倫理的思考について説明します。

倫理的思考(Ethical thinking)

IB(国際バカロレア)の行った「未来のコンピテンシー」(Competencies in the future)という研究の中で、倫理的思考(Ethical thinking)についての報告書が出されています。以下では、その報告書に書かれている定義と結論部分(の一部)を中心に、簡単にご紹介します。(原文の英語を私(藤本)が和訳しました。)

出典:

Lorié, W. (2023). Measuring student success skills: A review of the literature on ethical thinking. Dover, NH: National Center for the Improvement of Educational Assessment.

https://www.ibo.org/globalassets/new-structure/research/pdfs/ethical-thinking-full-report-en.pdf

「倫理的思考」の定義

「倫理的思考とは、様々な状況において倫理的問題を特定し記述する過程、それらの問題に対する異なる対応に内在する倫理的配慮を明確にすること(articulating)、そしてそれらの配慮に対応する立場の根拠(rationale)を示すことを指します。倫理的問題とは、倫理的配慮を考慮せずに解決できないジレンマを指します。こうした配慮には以下が含まれます:

  • 正誤(right and wrong)
  • 善悪(good and bad)の概念
  • 個人、共同体、非人間動物の尊厳と権利
  • 価値観、原則、中核的信念
  • 倫理的決定の結果
  • 動機と意図
  • 道徳的性格(moral character)、誠実さ(integrity)、徳性(virtue)
  • 責任、義務、責務
  • 正義、公平性、平等(equity)」(5頁)

報告書の結論部分

「本論文では、教育現場における倫理的思考の概念化と発達について考察しました。まず、認知的側面と直感(intuition)・社会的ニーズ・道徳的基盤の影響を統合した倫理的思考の定義を提示いたしました。この定義は、倫理的思考における個人差や文化的差異、そして体系的な指導によるその向上の可能性を認めるものです。続いて、道徳的推論の発達理論を分析し、小さい子供たち(very young children)における独自の領域としての存在や文化的側面について言及しました。その後、様々な教育学的アプローチを反映した倫理的思考を育む指導戦略を探求しました。倫理的思考の発達において、倫理的ジレンマの議論(ethical dilemma discussions)が効果的であることを強く支持する研究結果を指摘しました。最後に、倫理的思考に隣接するスキル(道徳的推論など)を評価するためのツールをまとめ、倫理的思考の評価における文脈と目的の重要性をもって結論としました。」(18頁)

その他

「事例研究、ロールプレイ、討論などを取り入れた倫理教育プログラムは、道徳的推論能力を高め(Rest & Narvaez, 1994)、それによって倫理的思考を変化させることが可能です。」(13頁)

「主に西洋・ヨーロッパに根ざす道徳心理学は、個人を自律的な道徳的主体と捉え、結果として倫理的思考を行う主体として個人を位置づけます。これに対し、アフリカ、アジア、および(米国以外の)アメリカ大陸の多くの文化では、集団を重視する傾向があります(例:Triandis, 1995)。道徳的推論や意思決定における共同体の役割を十分に考慮しない道徳発達枠組みは、不完全であると言えるでしょう(Siddle-Walker & Snarey, 2004; Snarey & Keljo, 1991)。」(13頁)

「重要なのは、競合する価値観によって特徴づけられ、何が道徳的に正しいかが容易には明らかにならない、道徳的に曖昧な状況を学生に提示することです。これにより学生は、道徳的に「不安定な」(unbalanced)状態に陥り、「解決策を模索する必要性を自覚させ、解決策を見出す動機付けとなり、均衡を回復しようとする(to restore equilibrium)努力を促進する」(Araki, 2014, p.314)のです。」(14頁)

所感

個人的に、この定義はなかなか分かりやすいと思いました。

また、「道徳的推論や意思決定における共同体の役割を十分に考慮しない道徳発達枠組みは、不完全であると言えるでしょう」という部分が印象的でした。日本は欧米と違うということですね。共同体の役割が強すぎると、過度の同調圧力、個人の抑圧ということになり、問題が大きいと思いますが、反対に、「個」を欧米並みに重視しようとしても、現実の日本の社会に合わず、うまくいかないのでしょうね。

ちなみに、P14において引用された「Araki, 2014」は、荒木紀幸教授の論文です。

Araki, N. (2014). An application of Kohlberg’s theory of moral dilemma discussion to the Japanese classroom and its effects on moral development of Japanese students. In L. Nucci, D. Narvaez, & T. Krettenauer (Eds.), Handbook of Moral and Character Education (2nd ed., pp. 308-325). Routledge.

次回に続きます。

元塾 藤本豪