前回の続きです。
今回は、IBの「未来のコンピテンシー」の初期セットのうち、批判的思考について説明します。

批判的思考(Critical thinking)
IB(国際バカロレア)の行った「未来のコンピテンシー」(Competencies in the future)という研究の中で、批判的思考(Critical thinking)についての報告書が出されています。以下では、その報告書に書かれている定義と結論部分(の一部)を中心に、簡単にご紹介します。(原文の英語を私(藤本)が和訳しました。)
出典:
Evans, C. M. (2020). Measuring student success skills: A review of the literature on critical thinking. Dover, NH: National Center for the Improvement of Educational Assessment.
https://www.nciea.org/wp-content/uploads/2021/11/CFA-CriticalThinkingLitReport-FINAL.pdf
「批判的思考」の定義
「アメリカ哲学協会(The American Philosophical Association)は1990年、批判的思考の定義と概念化について議論するため46名の専門家によるパネルを招集しました。この議論は「デルファイ報告書」(The Delphi Report)(Facione, 1990)としてまとめられました。デルファイ・パネルは批判的思考を次のように定義しました…目的意識を持ち(purposeful)、自己調整的な判断(self-regulatory judgment)であり、解釈、分析、評価、推論(inference)をもたらすとともに、その判断の根拠となる証拠的、概念的、方法論的、基準的(criteriological)、文脈的考察についての説明を含むものです… 理想的な批判的思考者は、常に探究心を持ち(inquisitive)、十分な情報を備え(well-informed)、理性に信頼を置き(trustful of reason)、心を開き、柔軟であり、評価において公平であり(fair-minded in evaluation)、自身のバイアスに向き合うことに誠実であり、判断を下す際には慎重であり、再考する意思を持ち(willing to reconsider)...そして、対象と探究の状況が許す限り正確な結果を追求する粘り強さを備えています(Facione, 1990, p. 3)。」(4頁)
報告書の結論部分からの抜粋
「批判的思考がどの程度汎用的であるか、あるいは領域固有であるか、さらに批判的思考がどのように発達するかについては、議論が続いています。とはいえ、研究によれば、幼い子供たちでさえ批判的思考の側面を示していることが示唆されています。実証研究はまた、批判的思考は教え得るものであり、より批判的思考を促進する特定の指導アプローチや戦略が存在することを示しています。これらの指導アプローチには、批判的思考スキルを教えるコース内で、教科内容の明示的な指導を行うことも含まれます。批判的思考を促進する指導戦略には、以下のものが含まれます:(a) 複数の解決策が存在する問題に取り組む機会を提供すること、(b) 生徒が自由回答形式の質問に答え、問題解決策を構築できる枠組みを整えること、(c) 生徒が自ら選択し、実際の問題解決に取り組める多様な学習活動を提供すること。」(14-15頁)
その他
「混合アプローチ介入(mixed-approach interventions)——教科内容と明示的な批判的思考指導を組み合わせたもの——は、他のあらゆる指導形態を大きく上回る成果を示しました。一方、没入型介入(immersion interventions)は他のすべてのアプローチを大きく下回る結果となりました。つまり、最も効果の低いアプローチは、批判的思考の原則を明示的に用いることなく(without explicit use of critical thinking principles)、思考を促す教科内容指導(thought-provoking subject matter instruction)に生徒を没入させる(immerse)方法であったのです。」(10頁)
「教師は、複数の解決策が存在する現実的な問題解決の機会(real-world opportunities for solving problems)を提供し、生徒が自由回答形式の質問(open-ended questions)に応答し、問題解決策を構想(formulate)・表現(articulate)できる枠組みを整え、生徒が自ら選択し本物の問題(authentic problems)の解決に取り組める多様な学習活動を提供することで、批判的思考活動への参加機会を促進できます。」(3頁)
所感
IB自身は「批判的思考」の定義づけを行っておらず、アメリカ哲学協会(The American Philosophical Association)の「デルファイ報告書」(The Delphi Report)における定義を引用しています。「目的意識を持ち、自己調整的な判断であり、解釈、分析、評価、推論をもたらすとともに、その判断の根拠となる証拠的、概念的、方法論的、基準的、文脈的考察についての説明を含むもの」という定義は、個人的には抽象的で内実に乏しいように感じられますが、その後に続く部分に重要な意味が書かれていると思います。
「理想的な批判的思考者は、常に探究心を持ち、十分な情報を備え、理性に信頼を置き、心を開き、柔軟であり、評価において公平であり、自身のバイアスに向き合うことに誠実であり、判断を下す際には慎重であり、再考する意思を持ち...そして、対象と探究の状況が許す限り正確な結果を追求する粘り強さを備えています」
正確な結果を粘り強く追求するというのが核心で、そのために十分な情報を備え、理性に信頼を置いて合理的に考え、柔軟・公正であり、自己のバイアスに向き合い、判断を下す際には慎重であり、間違っていれば再考するという意思をもつ、ということだと理解しました。
個人的には、「最も効果の低いアプローチは、批判的思考の原則を明示的に用いることなく、思考を促す教科内容指導に生徒を没入させる方法であったのです。」という部分も印象的でした。
次回に続きます。
元塾 藤本豪


