前回まで、EUの「生涯学習のためのキー・コンピテンシー」の一つひとつの意味を紹介してきました。今回はまとめです。

「生涯学習のためのキー・コンピテンシー」(まとめ)
前回まで、2018年改訂版の「生涯学習のためのキー・コンピテンシー」の一つ一つの意味を紹介してきました。
- リテラシー(Literacy competence)
- 多言語能力(Multilingual competence)
- 数学的能力、科学・技術・工学の能力(Mathematical competence and competence in science, technology and engineering)
- デジタル能力(Digital competence)
- 人的・社会的・「学び方の学び」の能力(Personal, social and learning to learn competence)
- 市民性の能力(Citizenship competence)
- アントレプレナーシップの能力(Entrepreneurship competence)
- 文化的意識と表現の能力(Cultural awareness and expression competence)
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32018H0604(01)
私(藤本)の感想として、以下の2点が大きな特徴だと思いました。
① 各コンピテンシーの意味が広い
いろんな国で主要コンピテンシーとして割とよく取り上げられている「批判的思考」、「コミュニケーション」、「異文化理解」といったものが、ここでは独立の主要コンピテンシーとして取り上げておらず、他方で、一つ一つの主要コンピテンシーに様々な意味内容を含めています。例えば「リテラシー」に「コミュニケーション」を含めています。(なお、「批判的思考」は、「リテラシー」、「デジタル能力」、「市民性の能力」、「アントレプレナーシップの能力」に含まれています。)
② 文化活動自体の能力(文化的意識と表現の能力)を主要コンピテンシーの一つとして取り上げている
この「生涯学習のためのキー・コンピテンシー」は、平たく言えば、「EUの経済力を強化するには人材育成が必要だから、各加盟国はこれを参考として、国民が優れた人材になるよう生涯にわたって学ばせるように。」ということで作られた文書です。目的はEUの経済力の強化であって、個人や社会のウェルビーイングではありません。それでも、文化活動自体の能力(文化的意識と表現の能力)が主要コンピテンシーの一つとして取り上げていることで、少しバランスが図られているのかな、と思いました。
私見
EUの「生涯学習のためのキー・コンピテンシー」は、Counsil Recommendation(理事会勧告)であり、法的拘束力を持ちません。各加盟国はこれを参考としつつ、独自の教育方針を定めています。以前ご紹介したノルウェーがその一例です。ノルウェーのコンピテンシーの枠組みは、EUの「生涯学習のためのキー・コンピテンシー」とだいぶ違います。また、私(藤本)の気付いた範囲では「ノルウェーの経済力の強化」という観点が全く見られず、人と社会のための教育という印象を受けました。他方で、スペインはEUの「生涯学習のためのキー・コンピテンシー」ほぼそのままの枠組みで主要コンピテンシーを定めています(https://educagob.educacionfpydeportes.gob.es/curriculo/curriculo-lomloe/menu-curriculos-basicos/ed-primaria/competencias-clave.html?utm_source=chatgpt.com)。国によって様々ということです。
日本の教育に関する議論の中で、参考情報としてEUの「生涯学習のためのキー・コンピテンシー」に言及されることがありますが、そういった際には、同文書がEUの経済力の強化という目的のために作成されたものである(なので、だいぶ経済に寄った内容となっている)ことを念頭に置いておく必要があるのではと、私(藤本)としては思います。
元塾 藤本豪


