前回に続き、EUの「生涯学習のためのキー・コンピテンシー」についてご紹介します。

今回は、2018年改訂版(つまり現行のバージョン)のもととなっている考え方をご紹介します。

「生涯学習のためのキー・コンピテンシー」の考え方

2018年改訂版の「生涯学習のためのキー・コンピテンシー」は、次のとおりです。

  • リテラシー(Literacy competence)
  • 多言語能力(Multilingual competence)
  • 数学的能力、科学・技術・工学の能力(Mathematical competence and competence in science, technology and engineering)
  • デジタル能力(Digital competence)
  • 人的・社会的・「学び方の学び」の能力(Personal, social and learning to learn competence)
  • 市民性の能力(Citizenship competence)
  • アントレプレナーシップの能力(Entrepreneurship competence)
  • 文化的意識と表現の能力(Cultural awareness and expression competence)

基礎とする考え方

以下、2018年の勧告文書の中から一部を抜粋して紹介します。

欧州の強靭性を強化するためのスキルと能力

「人々は、明日の社会と労働の世界を見据え、現在の生活水準を維持し、高い雇用率を支え、社会的結束(social cohesion)を育む(foster)ために、適切なスキルと能力(competences)を必要としています。欧州全域の人々が、個人の充実(personal fulfilment)、健康、雇用可能性(employability)、社会的包摂に必要なスキルと能力を獲得することを支援することは、急速かつ深い(profound)変化の時代にあって欧州の強靭性(resilience)を強化するのに役立ちます。」(前文(2))

必要とされる能力の変化

「今日、自動化の対象となる仕事が増え、あらゆる仕事や生活の分野においてテクノロジーがより大きな役割を果たすようになり、変化への適応力や強靭性を確保するために、アントレプレナー的(entrepreneurial)、社会的、市民的な能力がより重要になっていることから、どのような能力が必要かということ(competence requirements)も変化しています。」(前文(4))

重視されるスキル

「知識経済においては、事実や手順の記憶が重要ではありますが、進歩と成功のためにはそれだけでは不十分です。問題解決、批判的思考、協働の力(ability to cooperate)、創造性、計算的思考(computational thinking)、自己調整(self-regulation)といったスキルは、急速に変化する現代社会において以前よりも不可欠なものとなっています。これらは、新たなアイディア、理論、製品、知識を生み出すために、学んだことを現実の場面で(in real time)活用するツールです。」(前文(7))

欧州が重視する主要能力の形成と重点分野

「個人の充実、健康、雇用可能性、社会的包摂に必要な一連の主要能力の定義は、社会的・経済的発展だけでなく、過去10年間の欧州における様々な取り組み(initiatives)によっても形作られてきました。特に、基礎的スキルの向上、言語学習への投資、デジタルおよびアントレプレナーの力の育成、社会の機能における共通的価値観(common values)の意義(relevance)、そしてより多くの若者が科学関連分野のキャリアに就くよう動機付けることなどが重視されてきました。」(前文(12)より)

非制度的および非組織的な学習の重視

「非制度的および非組織的な学習(non-formal and informal learning)の重要性と意義(relevance)は、文化活動、青少年活動、ボランティア活動、アマチュアスポーツ(grassroots sport)を通じて得られる経験から明らかです。非制度的および非組織的な学習は、批判的思考、分析スキル、創造性、問題解決能力、強靭性といった、若者がおとなになり、積極的な市民となり、職業生活を送ることへの移行を促進する重要な対人スキル、コミュニケーション能力、認知能力の発達を支える上で重要な役割を果たします。異なる学習環境(learning setting)間の連携(cooperation)の確立は、多様な学習アプローチと文脈(contexts)の促進に寄与します。」(前文(17))

所感

一部に「個人の充実、健康、雇用可能性、社会的包摂」という表現があるものの、全体として、EUの経済力を上げること(および社会的統合を図ること)を目的としたものとなっています。EUの「生涯学習のためのキー・コンピテンシー」は、前回ご紹介したリスボン戦略を実行するためのものという位置づけだからですね。

ここまであからさまに教育を経済的な目的に仕えさせる発想は、EUの「生涯学習のためのキー・コンピテンシー」が、拘束力をもたない、各加盟国の参照用のものだからだと推察します。EUとしては経済力向上及び社会的統合の推進の観点からこの内容を推奨するが、実際にどのような考え方をとるかは各加盟国で決めてください、ということですね。実際、このブログで以前紹介したノルウェーはEU加盟国ですが、コンピテンシーの説明の中で「国の経済力の向上のため」といったことを強調していません。内容面でも、「アントレプレナーシップ」を独立のコンピテンシーとして扱っておらず、「創造の喜び、関与、探求への熱意」の中で少しだけ触れているにとどまりますし、若者を科学分野のキャリアに誘導するような内容も含まれていません(これらは、ノルウェーが資源国であり経済的に余裕があるためという理由かも知れませんが。)。

そのため、個人的に、このEUの「生涯学習のためのキー・コンピテンシー」を参考にするときは、経済的な面を割り引いて考えるべきと思っています。その制定の経緯や勧告文書であるという性質から、経済的な面が強調され過ぎているきらいがあるので、その面を割り引いて考えるべき、ということです。

とはいえ、個々のコンピテンシーについての説明は、参照用の勧告文書であるという性質上、分かりやすく書かれていると思いますので、次回から個々のコンピテンシーの内容を紹介していこうと思います。

次回に続きます。

元塾 藤本豪