次に、「イノベーション、創造性、アントレプレナーシップ」(Innovation, Creativity, and Entrepreneurship)の定義及び内容についてご紹介します。

(出典は、カナダのCouncil of Ministers of Education(教育担当大臣協議会)による"PAN-CANADIAN GLOBAL COMPETENCIES BACKGROUNDER"です。)

「イノベーション、創造性、アントレプレナーシップ」(Innovation, Creativity, and Entrepreneurship)の定義

「イノベーション、創造性、アントレプレナーシップ」の定義は、次のとおりです。

「イノベーション、創造性、アントレプレナーシップとは、コミュニティのニーズを満たすためにアイディアを行動に移す能力を意味する。概念、アイディアまたは製品を向上させ、複雑な経済的・社会的・環境的問題に対する世界に類を見ない解決策を生み出す能力には、リーダーシップ、リスクテイク、独立した/型破りな(unconventional)思考、そして探究型研究(inquiry research)を通じて新たな戦略・技術・視点を試すことが含まれる。起業家精神に富むマインドとスキルは、アイディアを持続的に構築・拡大することに重点を置くことを含むものである。」

注記:

「アントレプレナーシップ」(entrepreneurship)は、「起業家精神」と訳されることもありますが、「起業家精神」と書くと、ビジネスの世界で起業する人を育てるという意味に受け取ってしまう人が出てくるかも知れず、ミスリーディングな訳語だと私(藤本)は思っています。

私が複数の国の教育部門による定義を調べたかぎり、”entrepreneurship”という語は、ビジネスの世界にかぎらず、社会や組織、文化のあらゆる場面で、リスクをとりながら新しいことを創り出していく精神・行動・能力のことです。”entrepreneurship”は、ビジネスの起業のみを指すものではないし、精神のみを指すものでもないのです(なお、上記のカナダの文書において、「起業家精神」は”entrepreneurial spirit”と表現されています。)。

なので、私の個人的な意見としては、「アントレプレナーシップ」とそのままカタカナにするか、または、「進取の気性」、「進取の能力」といった訳語を当てるほうが良いと思います。(「進取の」は語感が古いせいか、あまり使われていませんが。)

「イノベーション、創造性、アントレプレナーシップ」に含まれる要素

「イノベーション、創造性、アントレプレナーシップ」には、以下の要素が含まれます。

• 複雑な社会的・経済的・環境的問題への解決策を提案する

• 創造的プロセスを通じて概念・アイディア・製品を向上させる

• 思考と創造においてリスクを取る

• 洞察に富んだ(insightful)質問や意見を形成・表現し、新たなアイディアを生み出す

• 新たな戦略や手法を用いて仮説を検証し実験する

• 探究的研究(inquiry research)を通じて発見を行う

• 様々な創造的プロセスにおいて、自主性(initiative)、想像力、創造性、自発性(spontaneity)、独創性(ingenuity)を発揮する

•コミュニティのニーズを満たすため、新たなアイディアを追求し、リーダーシップを発揮する

• 倫理的な(ethical)起業家精神(entrepreneurial spirit)をもって指導し(lead)、動機づけを行う(motivate)

「イノベーション、創造性、アントレプレナーシップ」に関する生徒の活動

上記の内容を生徒の活動について当てはめると、以下のとおりです。

• 生徒は、洞察に富んだ(insightful)質問や意見を形成・表現することで、新たなアイディアを生み出す。

• 生徒は、創造的プロセスを通じて概念・アイディア・製品を向上させること、思考と創造においてリスクを取ること、探究的研究(inquiry research)を通じて発見すること、新たな戦略や技術を仮説立て実験することなど、様々な方法で複雑な経済的・社会的・環境的問題や地域社会のニーズの解決に貢献する。

• 生徒は、多様な創造的プロセスにおいてリーダーシップ、自主性(initiative)、想像力、創造性、自発性(spontaneity)、独創性(ingenuity)を示し、倫理的な(ethical)起業家精神(entrepreneurial spirit)をもって他者を動機づける(motivate)。

いわゆる「アントレ教育」について

カナダのCouncil of Ministers of Education(教育担当大臣協議会)による「イノベーション、創造性、アントレプレナーシップ」の説明は、以上です。

こうして見てみると、「イノベーション、創造性、アントレプレナーシップ」は、単に新しいアイディアを思いつくというだけでなく、実社会における実践に重点が置かれているのが分かります。これは広く実社会における「進取」の能力であり、ビジネスの世界に限られるものではありません。

日本でも近年では「アントレプレナーシップ教育」が模索されており、縮めて「アントレ教育」と呼ばれたりしています。2025年3月には、3個のコア・コンピテンシーと 10個のコア・スキルから成る「日本版 EntreComp v1」が発表されました。現在のところ、日本の「アントレ教育」は「キャリア教育」の一貫として位置づけられており、私(藤本)の個人的な印象としては、ビジネスの側面がかなり強調されているように感じられます。

この点、文部科学省も、「アントレプレナーシップ教育は、自ら社会課題を見つけ、課題解決に向かってチャレンジしたり、他者との協働により解決策を探究したりすることができる知識・能力・態度を身に付ける教育であり、起業家を育成するためだけのビジネス教育とは異なります。」とはっきり述べています(出典:https://entrepreneurship-education.mext.go.jp/)。

私見ですが、「アントレ教育=ビジネス教育」という印象が強まってしまうと、アントレプレナーシップ教育の実践は広がって行きにくいのではと思います。「アントレプレナーシップ」という語がビジネスや起業から切り離され、すべての生徒にとって実生活の面で有益なものであるということがもっと浸透していけば、文科省の上記ページにもあるように「"Well-being"を達成」することに繋がりやすくなるのではないでしょうか。

次回に続きます。

元塾 藤本豪