前回は、シンガポールの教育システムが育てようとしている人物像についてお話ししました。今回は、そのような人物になるためには、どのような能力を身につける(あるいは伸ばす)必要があるかという話です。
この点、シンガポールは、「21世紀のコンピテンシー」(21st Century Competencies)として様々な能力を挙げているので、その内容を紹介していきます。

コンピテンシーとは?
今の世界的な教育のトレンドは、コンピテンシーの能力概念に基づく教育論・学習論です。
コンピテンシー(competency)とは、簡単に言えば、一人ひとりが幸せな人生を送り、より良い社会になっていくために役立つ、総合的な能力のことです。コンピテンシーは、単なる知識や技術ではなく(学力でもなく)、知識、技術、態度、価値観など様々な面を合わせた意味での「能力」です。
能力に関するこのような考え方は、OECD(経済協力開発機構)が提唱し、世界的に広まりました。日本も、平成29・30・31年告示の学習指導要領で、コンピテンシーに基づく教育論に舵を切り、次期学習指導要領においてもそれが継続される予定です。
教育は、どのような「能力」(態度や価値観などを含む「能力」)を育むべきなのか。これが明確になっていれば、意味の乏しいことを子どもや若者に押し付け、10代の貴重な時間を奪い、無用なストレスを与える、という害悪を多少なりとも減らせるのではないでしょうか。
また、学ぶ側の子どもや若者にとっても、どのような能力を伸ばしていけば自分の将来にとって役立つのか(将来有利になるのか)を知っておくことは、自らの学びや成長の方向づけという面でも、モチベ―ションをもつという面でも、きっと有益だろうと考えます。
そのような理由から、私(藤本)は、世界各国におけるコンピテンシーの定め方に大きな興味をもっています。なので、このブログでは、これからいろんな国のコンピテンシーの定め方について紹介していくつもりです。
シンガポールの「21世紀のコンピテンシー」
その第1弾として、シンガポールの定めるコンピテンシーについて紹介します。シンガポールは、その定めたコンピテンシーのことを、「21世紀のコンピテンシー」(21st Century Competencies)と呼んでいます。
以下の説明は、シンガポール教育省によるものです。
出典:https://www.moe.gov.sg/education-in-sg/21st-century-competencies
中核的価値観(core values)
「21世紀のコンピテンシー」の中心となるのは、中核的価値観(core values)です。価値観は、個人の信念、態度、行動を形づくるものだからです。中核的価値観は次のとおりです。
尊重: 自分自身の価値(their own self-worth)と他者の内在的な価値(intrinsic worth of people)を信じることで、尊重を示す。
責任: 自分自身、家族、地域社会、国家、そして世界に対する義務を認識し、愛(love)と関わり合い(commitment)をもってその責任を果たす。
強靭性(resilience): 感情的な強さ(emotional strength)を示し、困難に直面しても粘り強く取り組む、強靭性をもつ。また、勇気、楽観主義、適応力、そして困難な状況でも利用可能な資源を駆使して解決策を見つけ出す能力(resourcefulness)をもつ。
誠実さ(integrity): 倫理的な原則(ethical principles)を遵守し、正しいことを守るための道徳的な勇気(moral courage)を持つことで、誠実さを示す。
思いやり(care): 親切さ(kindness)と共感(compassion)をもって行動し、地域社会と世界の向上(betterment)に貢献することで、思いやりを示す。
調和(harmony): 社会的結束(social cohesion)を促進し、多文化社会(multicultural society)の統一性と多様性を尊重する(appreciate)ことで、調和を保つ。
社会的・感情的コンピテンシー
これらに加えて、子どもや若者が健全なアイデンティティを育み、感情を認識し管理し、他者に対する責任感、配慮及び関心を増やし、他者との関係を築き、ポジティブな人間関係を育み、困難に対処し、責任ある決断を下し、自己、他者、社会の利益のために行動するために必要なものとして、次の社会的・感情的コンピテンシーを定めています。
・ 自己認識(Self-Awareness)
・ 自己管理(Self-Management)
・ 責任ある意思決定(Responsible Decision-Making)
・ 社会的意識(Social Awareness)
・ 人間関係の調整(Relationship Management)
21世紀の新たなコンピテンシー
さらに、21世紀の新たなコンピテンシーとして、以下のものが挙げられています。
・ 批判的、適応的、創造的思考(Critical, Adaptive and Inventive Thinking)
・ コミュニケーション、協働、情報スキル(Communication, Collaboration and Information Skills)
・ 市民的、グローバル、異文化理解力(Civic, Global and Cross-Cultural Literacy)
次回に続きます。
元塾 藤本豪


