前回に続き、一つ一つのコンピテンシーの意味内容を見ていきます。
今回は、アントレプレナーシップ(Entrepreneurship)についてです。

アントレプレナーシップを主要コンピテンシーとして定めている国・地域・組織
このブログで取り上げた17の国、地域、組織のうち、コンピテンシーの一つとしてアントレプレナーシップ(Entrepreneurship)を挙げているのは、カナダ、EU、米国(P21 Framework)、エストニア、スペインです。
他にも、たとえばオーストラリアは「批判的・創造的思考」(Critical and Creative Thinking)の中にアントレプレナーシップを組み込んでいますし、また、アントレプレナーシップという概念での括りは行っていなくても、その中身を重視している国は多いです。
カナダ
カナダでは、アントレプレナーシップ(Entrepreneurship)について、次のとおり定めています。
(このブログで以前に「イノベーションと創造性」と併せて紹介しましたが、そこから「イノベーションと創造性」の部分を削除して載せます。)
アントレプレナーシップ(Entrepreneurship)
「アントレプレナーシップ」の定義は、次のとおりです。
「アントレプレナーシップとは、コミュニティのニーズを満たすためにアイディアを行動に移す能力を意味する。概念、アイディアまたは製品を向上させ、複雑な経済的・社会的・環境的問題に対する世界に類を見ない解決策を生み出す能力には、リーダーシップ、リスクテイク、独立した/型破りな(unconventional)思考、そして探究型研究(inquiry research)を通じて新たな戦略・技術・視点を試すことが含まれる。起業家精神に富むマインドとスキルは、アイディアを持続的に構築・拡大することに重点を置くことを含むものである。」
「アントレプレナーシップ」には、以下の要素が含まれます。
- 創造的プロセスを通じて概念・アイディア・製品を向上させる
- 思考と創造においてリスクを取る
- ミュニティのニーズを満たすため、新たなアイディアを追求し、リーダーシップを発揮する
- 倫理的な(ethical)起業家精神(entrepreneurial spirit)をもって指導し(lead)、動機づけを行う(motivate)
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EU
EUの「生涯学習のためのキー・コンピテンシー」では、アントレプレナーシップの能力(Entrepreneurship competence)について、次のとおり定められています。(欧州理事会の勧告(2018/C 189/01)の別紙の内容から一部を抜き出して紹介します。)
アントレプレナーシップの能力(Entrepreneurship competence)
「アントレプレナーシップの能力とは、機会やアイディアを捉え、それらを他者にとっての価値へと変える能力を指します。創造性、批判的思考、問題解決能力、自発性(taking initiative)と粘り強さ(perseverance)、そして協調的に取り組む能力を基盤とし、文化的・社会的・経済的(financial)価値を持つプロジェクトを計画し管理する能力が求められます。」
このコンピテンシーに関連する必須の知識、技能、および態度
「アントレプレナーシップの能力には、個人、社会、職業活動においてアイディアを行動に移すための様々な状況や機会が存在すること、そしてそれらがどのように生じるかを理解することが求められます。個人は、プロセスとリソースの両方を含むプロジェクトの計画と管理へのアプローチを知り、理解すべきです。また個人は、経済の仕組み、ならびに、雇用主、組織、社会が直面している社会的・経済的機会および課題についての理解を持つべきです。また、持続可能な開発の倫理的原則と課題について認識し、自身の強みと弱みについての自己認識を持つべきです。
アントレプレナーシップの技能は、創造性を基盤としており、想像力、戦略的思考、問題解決能力、そして進化する創造的プロセスとイノベーションにおける批判的かつ建設的な考察を含みます。これには個人として、またチームで協働する能力、人的・物的資源を動員する能力、活動を継続する能力が含まれます。これにはコストと価値に関する財務的判断を下す能力も含まれます。効果的に他者とコミュニケーションをとり交渉する能力、また情報に基づいた意思決定の一環として不確実性、曖昧性、リスクに対処する能力は不可欠です。
アントレプレナーシップの態度は、主体性と能動性(agency)、積極性(pro-activity)、先見性(being forward-looking)、目標達成に向けた勇気と忍耐力によって特徴づけられます。これには、他者を動機づけそのアイディアを尊重する意欲、共感力、人々と世界への配慮、そしてプロセス全体を通じて倫理的なアプローチを取りながら責任を受け入れる姿勢が含まれます。」
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https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32018H0604(01)
エストニア
エストニアでは、アントレプレナーシップの能力(Entrepreneurship competence)について、次のとおり定めています。
アントレプレナーシップの能力(Entrepreneurship competence)
アントレプレナーシップの能力とは、以下のことを行う能力を指します。
- 様々な生活や活動の分野で、習得した知識や技能を活用し、アイディアを創造し実行に移す
- 問題点とその中に潜む機会を見極め、問題解決に貢献する
- 目標を設定し、計画を立て、導入(introduce)・実行する
- 共同活動(joint activities)を組織し、これに参加する
- 率先して行動し(show initiative)結果に対する責任を負う
- 創造的、革新的かつ柔軟に対応する
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https://www.riigiteataja.ee/en/compare_wordings?grupiId=100391&vasakAktId=524092014014&utm
スペイン
スペインでは、アントレプレナーシップの能力(Competencia emprendedora)について、次のとおり定めています。
アントレプレナーシップの能力(Competencia emprendedora)
アントレプレナーシップとは、機会やアイディアに対して行動を起こすための重要なアプローチを開発し、他の人々に価値ある結果を生み出すために必要な専門知識を活用することを意味します。それは、ニーズや機会を発見するために視点を調整する戦略、環境を分析・評価するための思考を鍛える戦略、創造的・革新的なプロセスの中で想像力、創造力、戦略的思考、倫理的・批判的・建設的な考察を用いてアイディアを創出し、再考する戦略、そして、創造意欲、リスクを取る意欲、不確実性に対処する意欲を喚起する戦略をもたらします。また、情報と知識に基づいた意思決定を行い、モチベーション、共感力、コミュニケーション能力、交渉力をもって他の人々と機敏に協力し、社会的、文化的、経済的・財政的価値のある持続可能なプロジェクトの計画と管理を通じて、提案されたアイディアを実行に移すことも含まれます。
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所感
エストニアの定義は、要素に分解され、抽象的・一般的なものになっていますが、カナダ、EU、スペインの定義は、ほぼそのまま、新しいビジネスを立ち上げるときに必要な能力の記述ですね。カナダは、「イノベーション、創造性、アントレプレナーシップ」の中からアントレプレナーシップの部分だけを切り出しているので、余計にそのような印象になっているという面があると思いますが、EUとスペインは、ビジネスの要素がとくに濃いです。
以前このブログで書いたとおり、文部科学省は、「アントレプレナーシップ教育は、自ら社会課題を見つけ、課題解決に向かってチャレンジしたり、他者との協働により解決策を探究したりすることができる知識・能力・態度を身に付ける教育であり、起業家を育成するためだけのビジネス教育とは異なります。」とはっきり述べています(出典:https://entrepreneurship-education.mext.go.jp/)。
「アントレプレナーシップ」という語がビジネスや起業から切り離され、すべての生徒にとって実生活の面で有益なものであるということがもっと浸透していけば、文科省の上記ページにもあるように「"Well-being"を達成」することに繋がりやすくなるのではと思います。
次回に続きます。
元塾 藤本豪


