前回の続きです。
今回は、異文化理解(Intercultural Understanding)についてです。

異文化理解を主要コンピテンシーとして定めている国・地域・組織
このブログで取り上げた17の国、地域、組織のうち、コンピテンシーの一つとして異文化理解(Intercultural Understanding、Cultural Diversityなど)を挙げているのは、シンガポール、ノルウェー、IB(国際バカロレア)、米国(P21)、オーストラリア、台湾、ブラジルです。
他の国々は、他のコンピテンシーの内容として、多様性の尊重や異文化の尊重を含めています。
ノルウェー
ノルウェーは、「アイデンティティと文化的多様性」(Identity and cultural diversity)について、次のとおり定めています。
アイデンティティと文化的多様性(Identity and cultural diversity)
生徒には、異なる視点や態度、人生観と共に生きる方法についての洞察が与えられなければなりません。様々な文化的表現や伝統との触れ合いを通じて生徒が得る経験は、彼らのアイデンティティ形成に役立ちます。良き社会は、包摂性と多様性の理念に根ざしています。
社会における言語的多様性に関する知識は、あらゆる生徒に様々な表現形式、考え、伝統に対する貴重な洞察を提供します。全ての生徒は、複数の言語に習熟すること(being proficient in a number of languages)が、学校においても社会全体においても貴重な資源であることを実感すべきです。
歴史を通じて、ノルウェー社会は様々な潮流や文化的伝統の影響を受けてきました。人口構成(population)がかつてないほど多様化し、また、世界がより密接につながる(where the world is coming closer together)現代において、言語能力と文化的理解はますます重要性を増しています。学校は、一人ひとりのアイデンティティの形成(development)を支援し、自分は何者であるかにつき生徒に自信を持たせる(make the pupils confident in who they are)とともに、この多様な社会に参加し世界と未来への扉を開くために必要な、共通の価値観を提示しなければなりません。
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IB(国際バカロレア)
IB(国際バカロレア)では、異文化理解(Intercultural understanding)について、下記のとおり定めています。
出典:
Brandt, W. (2024). National Center for the Improvement of Educational Assessment.
異文化理解(Intercultural understanding)
「異文化理解とは、個人が異なる文化間における動的な立場、慣習(practices)、力関係(power relationships)について認識し理解することを含みます。異文化尊重(intercultural appreciation)とは、共感、敬意、寛容さ(open-mindedness)といった感情的な資質(affective qualities)を含み、これにより個人は様々な文化に属する個人や集団の多様な視点、慣習、貢献を認識し評価することが可能となります。内省(reflection)には、他文化に関連する自身の前提、バイアス、経験を批判的に評価するスキルが含まれます。これは文化的多様性に対する理解と評価を深めることを目的としています。さらに、異文化理解には、文化的アイデンティティ、行動、影響が固定されたものではないことを認識することが含まれます。むしろ、それらは「動的な立場、実践、力関係」によって絶えず形作られているのです(Habecon, 2014)。」(4頁)
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米国(P21)
米国(P21 Framework)では、異文化能力(CROSS-CULTURAL SKILLS)について、次のとおり定めています。
異文化能力(CROSS-CULTURAL SKILLS)
多様性をもつチームで効果的に働く
- 文化的差異を尊重し、様々な社会的・文化的背景を持つ人々と効果的に協働する
- 異なる考え方や価値観に対して柔軟に対応する(respond open-mindedly)
- 社会的・文化的差異を活かして(leverage)新たなアイディアを生み出し、イノベーションと仕事の質を向上させる
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https://files.eric.ed.gov/fulltext/ED519462.pdf
オーストラリア
オーストラリアでは、異文化理解(Intercultural Understanding)について、次のとおり定めています。
異文化理解(Intercultural Understanding)
異文化理解(Intercultural Understanding)とは、共通点や相違点を認識し、他者とつながりを築き、相互尊重の念を育む方法によって、多様な文化について学び、関わっていくことを指します。
生徒は、自分の文化、言語、信念(beliefs)、そして他者の文化、言語、信念を尊重する(value)ことを学ぶことで、異文化理解を深めます。
また、生徒は、個人、集団、国家のアイデンティティがどのように形成されるか、そして文化の多様性や変化の性質について理解します。
異文化理解は次のような構造をもっています。
- 文化の認識と尊重を育てる
- 他者と交流し、共感する
- 異文化体験を振り返り、自分の行動に責任をもつ
文化の認識と尊重を育てる
この要素では、生徒が自らの文化的アイデンティティおよび他者の文化的アイデンティティについて、次第に洗練されていく特徴を特定し、観察し、記述し、分析することを求めます。
生徒は、学習領域で提供される機会を通じて、既知の世界から踏み出し、特定の文化集団に関連する新たな考え方や経験を探求します。自らの知識や経験を他者と比較し、共通点を認識することを学び、生活における差異を認めつつ、そうした差異について批判的に考察し理解しようとする必要性を認識します。生徒は人々の間の違いを認識し、尊重するとともに、他者の視点や人権を尊重します。
他者と交流し、共感する
この要素では、生徒が異なる文化集団と関わることで、文化間を往来し相互理解を深めるスキルを育成します。対面・仮想・間接体験といった様々な状況下で、異文化学習に体験的側面をもたらします。
生徒は、身近な概念を新たな視点で考察します。これにより柔軟性、適応力、そして新たな文化的体験への意欲が育まれます。共感は、他者の視点や経験をあたかも自身のもののように想像することによって、他者との連帯感を育む助けとなります。共感とは、「他者の立場に立って考える」ことを想像し、他者の感情、状況、動機を特定することを意味します。
異文化体験を振り返り、自分の行動に責任をもつ
この要素では、異文化学習における重要な要素として、経験の意味を処理し、または考察する能力を生徒が養います。
生徒は、考察を通じて、特定の状況における個人や集団の行動、そしてそれらが文化によってどのように形成されるかをより深く理解します。自身の行動や異文化との遭遇に対する反応を考察し、それらに寄与した可能性のある文化的影響を特定するよう促されます。生徒は、「文化の間に立つ」ことを学び、異なる文化的価値観や視点を調和させ、自身の行動や文化内・文化間における他者との相互作用に対して責任を持つことを学びます。
台湾
台湾では、多元文化と国際理解(多元文化與國際理解)について、次のとおり定めています。
多元文化と国際理解(多元文化與國際理解)
自国の文化に対するアイデンティティを保持し、多元的な文化を尊重し、積極的にグローバルな課題や国際情勢に関心を持ち、時代の流れや社会のニーズに応じて、国際理解、多元的な文化の価値観、そして世界平和への広い視野を育むことができます。
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ブラジル
ブラジルは、多様な芸術・文化を尊重し、楽しみ、参加する力、及び、共感し、対話し、協力し、多様性を尊重して共に生きる力について、次のとおり定めています。
多様な芸術・文化を尊重し、楽しみ、参加する力
地域から世界に至るまで、様々な芸術的・文化的表現を評価し、楽しむとともに、多様な芸術的・文化的活動に参加する。
共感し、対話し、協力し、多様性を尊重して共に生きる力
共感、対話、紛争解決、協力を実践し、自らを尊重し、他者や人権を尊重し、個人や社会集団の多様性、その知識、アイデンティティ、文化、可能性を、いかなる偏見も持たずに受け入れて評価する。
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https://www.gov.br/mec/pt-br/escola-em-tempo-integral/BNCC_EI_EF_110518_versaofinal.pdf
所感
移民を含む国際的な人口流動の増加により各国の人口構成が複雑化し、かつ、国境をまたぐ交流がますます活発化している現在、異文化理解の力は非常に重要なものとなっています。
異文化理解のためには、「他者の立場に立って考える」こと、そして、他文化に対する自分のバイアス(偏見)を批判的に評価することが、とくに重要と思われます。
米国(P21 Framework)のように、「社会的・文化的差異を活かして新たなアイディアを生み出し、イノベーションと仕事の質を向上させる」という前向きな捉え方をすると良いですね。
次回に続きます。
元塾 藤本豪


