前回に続き、一つ一つのコンピテンシーの意味内容を見ていきます。
今回は、批判的思考(Critical Thinking)についてです。

批判的思考を主要コンピテンシーとして定めている国・地域・組織
このブログで取り上げた17の国、地域、組織のうち、コンピテンシーの一つとして批判的思考(Critical Thinking)を挙げているのは、シンガポール、カナダ、ノルウェー、IB(国際バカロレア)、米国(P21 Framework)、オーストラリア、ケニアです。
「批判的思考」という言葉は、いまや世界の教育界におけるキーワードのようになっている感があります。この「批判的思考」、それぞれの国や組織でどのように定義づけられているでしょうか。
カナダ
カナダでは、批判的思考(Critical Thinking)について、次のとおり定めています。
批判的思考(Critical Thinking)
(このブログで以前に「問題解決」と併せて紹介しましたが、そこから「問題解決」の部分を削除して載せます。)
「批判的思考とは、情報の収集、処理、分析、解釈を通じて複雑な課題(issues)や問題(problems)に取り組み、情報に基づいた(informed)判断や意思決定を行うことを指す。」
「批判的思考」は、次の要素を含みます。
- 情報の収集、処理、統合(synthesize)、解釈、批判的分析(critically analyze)を行い、情報に基づいた意思決定を行う(批判的リテラシー、デジタルリテラシー、データリテラシー)
- パターンを見出し、つながりを理解し、学んだことを別の状況(現実世界での応用を含む)に適用する
- 知識を結びつけ、構築し(construct)、関連づけ(relate)、学校・家庭・職場・友人・地域社会など、生活のあらゆる領域に適用する
- 社会システム、経済システム、エコロジカル・システムの機能および相互関係を分析する
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ノルウェー
ノルウェーでは、批判的思考(Critical Thinking)について、次のとおり定めています。
批判的思考(Critical Thinking)
批判的かつ科学的思考とは、特定の実践的な課題(challenges)、現象、表現、知識の形(forms of knowledge)に取り組む際に、探究的(inquisitive)かつ体系的な方法で推論を行うこと(applying reason)を意味します。
新たな知見(insight)を得るためには、出来上がった考え方(established ideas)を理論、方法、議論、経験、証拠を用いて精査し(scrutinise)批判する必要があります。生徒は様々な知識源を評価し、知識がどのように構築されるかについて批判的に考察できる能力を身につけなければなりません。また、自身の経験、考え(points of view)、確信(convictions)が不完全あるいは誤っている可能性があることも理解できなければなりません。
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IB(国際バカロレア)
IB(国際バカロレア)の報告書は、批判的思考(Critical Thinking)について、次のとおり述べています。
批判的思考(Critical Thinking)
「アメリカ哲学協会(The American Philosophical Association)は1990年、批判的思考の定義と概念化について議論するため46名の専門家によるパネルを招集しました。この議論は「デルファイ報告書」(The Delphi Report)(Facione, 1990)としてまとめられました。デルファイ・パネルは批判的思考を次のように定義しました…目的意識を持ち(purposeful)、自己調整的な判断(self-regulatory judgment)であり、解釈、分析、評価、推論(inference)をもたらすとともに、その判断の根拠となる証拠的、概念的、方法論的、基準的(criteriological)、文脈的考察についての説明を含むものです… 理想的な批判的思考者は、常に探究心を持ち(inquisitive)、十分な情報を備え(well-informed)、理性に信頼を置き(trustful of reason)、心を開き、柔軟であり、評価において公平であり(fair-minded in evaluation)、自身のバイアスに向き合うことに誠実であり、判断を下す際には慎重であり、再考する意思を持ち(willing to reconsider)...そして、対象と探究の状況が許す限り正確な結果を追求する粘り強さを備えています(Facione, 1990, p. 3)。」
出典:
Evans, C. M. (2020). Measuring student success skills: A review of the literature on critical thinking. Dover, NH: National Center for the Improvement of Educational Assessment.
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https://www.nciea.org/wp-content/uploads/2021/11/CFA-CriticalThinkingLitReport-FINAL.pdf
米国(P21 Framework)
米国(P21 Framework)では、批判的思考(Critical Thinking)について、次のとおり定めています。
批判的思考(Critical Thinking)
効果的に推論する(Reason Effectively)
- 状況に応じて様々な推論方法(帰納法、演繹法など)を活用する
システム思考を活用する(Use Systems Thinking)
- 複雑なシステムにおいて、全体を構成する各部分が相互に作用し、全体の結果を生み出す仕組みを分析する
判断と意思決定を行う(Make Judgments and Decisions)
- 証拠、議論、主張、信念(beliefs)を効果的に分析・評価する
- 主な代替案(major alternative points of view)を分析・評価する
- 情報と議論をすり合わせ(synthesize)、それらの関連性を構築する
- 情報を解釈し、最善の分析(the best analysis)に基づいて結論を導く
- 学習の経験とプロセスを批判的に省察する(reflect critically)
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https://files.eric.ed.gov/fulltext/ED519462.pdf
オーストラリア
オーストラリアでは、批判的思考(Critical Thinking)について、次のとおり定めています。
批判的思考(Critical Thinking)
批判的思考は、生徒が議論(argument)を認識又は構築し(develop)、その議論の裏付けとなる証拠を用い、合理的な結論を導き出し、情報を用いて問題を解決する、ほとんどの知的活動の核心です。批判的思考のスキルには、解釈、分析、評価、説明、順序付け、推論、比較、質問、判断、仮説の立案、評価、検証、一般化などが含まれます。
批判的思考は次のような構造をもっています。
- 探究 – 情報とアイディアの特定、探求、整理
- アイディア、可能性(将来予測)、および行動の生成
- 思考とプロセスの省察
- 推論・判断と手順の分析、統合、評価
探究 – 情報とアイディアの特定、探求、整理
生徒は、疑問を投げかけ、情報や考え(ideas)を特定・明確化し、その後情報を整理・処理します。質問(questioning)を用いて考えや問題(issues)を調査・分析し、情報や考えを理解・評価するとともに、多様な情報源から情報を収集・比較・評価します。
アイディア、可能性(将来予測)、および行動の生成
生徒は、将来の可能性を想像するとともに、代替案を検討し、解決策を求め、アイディアを実行に移すことによってアイディアを結びつけます。状況を探求し、行動の指針となる代替案を生み出し、解決策を探る際に選択肢や行動を試し、評価します。
思考とプロセスの省察
生徒は、思考について考え(メタ認知)、行動やプロセスを省察し(reflect)、知識を新たな文脈(contexts)へ転移(transfer)させて代替案を創出したり可能性を広げたりします。また、ある文脈で得た知識を別の文脈の理解に適用します。
推論・判断と手順の分析、統合、評価
生徒は、選択の背景にある論理と推論を特定し、検討し、評価します。また、決定された要素や実行された行動を区別し、基準(criteria)に基づいて考え(ideas)、方法、結果を評価します。
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ケニア
ケニアでは、批判的思考(Critical Thinking)について、次のとおり定めています。
批判的思考(Critical Thinking)
ブリティッシュ・カウンシル(2015年)は、次の3種類の思考を挙げています:推論(reasoning)、判断(making judgements,)、問題解決(problem solving)。批判的思考を身につけた学習者は、主観的になることを避け、論理と証拠を用いて結論に至ります。批判的思考は、新たな方法の探求と学習者の自律性も促進します。学習者は、あらゆる問題に対して、単に情報をそのまま思い出して(rigid recall)再現する(regurgitation)のではなく、探求することのできる複数の視点があることを学びます。
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https://kicd.ac.ke/wp-content/uploads/2019/08/BASIC-EDUCATION-CURRICULUM-FRAMEWORK-2019.pdf
所感
それぞれ複雑な定義ですが、ごく簡単に言うと、「確かな根拠に基づき合理的に考えること」ということだと理解しています。
合理的に考えるためには、本当に正しいかを逐一チェックすることが必要であり、自らのバイアス(確証バイアスや自信過剰バイアスなど)とも戦う必要があります。その部分を強調して、「批判的」(critical)思考と呼ばれているのだと思います。他人や自分を批判するという要素は、どの定義にも含まれていません。
次回に続きます。
元塾 藤本豪


