前回の続きです。

今回は、市民的リテラシー(Civic Literacy)についてです。

市民的リテラシーを主要コンピテンシーとして定めている国・地域・組織

このブログで取り上げた17の国、地域、組織のうち、コンピテンシーの一つとして市民的リテラシー(Civic Literacy)を挙げているのは、シンガポール、ノルウェー、EU、米国(P21 Framework)、エストニア、韓国、台湾、スペイン、ケニア、インドです。

他にも、たとえばフィンランドは「社会的能力」というように、他の枠組みの中で定めている国があります。

ノルウェー

ノルウェーは、「民主主義と参加」(Democracy and participation)、「民主主義と市民性」(Democracy and citizenship)について、それぞれ次のとおり定めています。

民主主義と参加(Democracy and participation)

学校は、生徒が民主主義の実践的意義(what democracy means in practice)について学び、参加する機会を提供しなければなりません。

教育と訓練は、民主主義的価値観および民主主義という統治形態への信念(belief)を育む(promote)ものでなければなりません。民主主義の基本原則と、民主主義を守ることの重要性を、生徒が理解できるよう指導しなければなりません。社会参加(participating in society)とは、相互尊重、寛容、個人の信仰と言論の自由、自由選挙といった基本的な民主主義的価値観を尊重し支持することを意味します。民主主義的価値観は、学習過程全体(entire learning path)を通じた積極的な参加を通じて促進されるべきです。

学校は、偏見や差別に対抗し得る民主主義的価値観と態度を育まなければなりません。生徒は学校において、人が一人ひとり異なることを尊重し、争いを平和的に解決する方法を学ばなければなりません。

民主主義社会は、全ての市民が意思決定プロセスに参加する平等な権利と機会を有するという理念に基づいています。少数派の保護は、法の支配に基づく民主的国家および民主的社会における重要な原則です。民主的国家は先住民族や少数派も保護します。先住民族の視点は、生徒の民主主義教育の一部です。学校環境に関わる全ての関係者は、少数派と多数派の視点に対する認識を深め、協力・対話・意見の相違(disagreement)の生じる場を確保しなければなりません。多様性を育むことと個人を包摂することの両立には、価値観への自覚と専門的判断の実践が求められます。

学校は、子どもや若者が実践的に民主主義を体験する場でなければなりません。生徒は、学校の日々の運営において自らの声が聴かれ、真の影響力(genuine influence)を行使でき、自身に関わる事柄に作用できることを実感しなければなりません。教科の日常的な学習活動や、生徒会(pupil councils)、諮問機関(advisory bodies)などの組織を通じて、様々な形の民主的参加を経験し実践する機会を得る必要があります。教師と生徒の間、学校と家庭の間での対話は、相互尊重に基づいて行われなければなりません。生徒の声が学校で聴かれるとき、彼らは自らの熟慮した決定を下す方法を体験するでしょう。こうした経験は現在において価値を持つと同時に、生徒が社会において責任ある市民となるための準備となります。

リンク

https://www.udir.no/lk20/overordnet-del/opplaringens-verdigrunnlag/1.6-demokrati-og-medvirkning?lang=eng

民主主義と市民性

学校における教科横断的テーマとしての民主主義と市民性は、生徒に民主主義の基本理念(basic tenets)とその価値観・規範に関する知識を与え、民主的プロセスへの参加に備えさせるものでなければなりません。教育と訓練は、民主主義と主要な人権(言論の自由、選挙権、結社の自由等)との関係性を生徒に理解させるものでなければなりません。また、民主主義には様々な形態と表現があるという事実について生徒が洞察を得る必要があります。

民主主義と市民性のテーマに取り組むことで、生徒は個人の権利と義務の関係性を理解するようにならなければなりません。個人には政治活動に参加する権利がある一方、社会は市民が政治参加の権利を行使し、市民社会の発展に影響を与えることに依存しています。学校は、生徒が積極的な市民(active citizens)となるよう促し、ノルウェーにおける民主主義の発展に参加する能力を身につけさせなければなりません。

教育と訓練は、民主主義の原則に沿って課題に対処するための知識と技能を生徒が身につけるものでなければなりません。生徒は、多数派の優位性(preponderance)と少数派の権利を同時に認識する際に生じるジレンマを理解しなければなりません。生徒は、批判的思考力を鍛え、意見の対立に対処し、異なる見解を尊重することを学ぶ必要があります。このテーマに取り組む過程で、生徒は民主主義が当然のものではない理由を学び、それを発展させ維持しなければならないことを理解しなければなりません。

リンク

https://www.udir.no/lk20/overordnet-del/prinsipper-for-laring-utvikling-og-danning/tverrfaglige-temaer/demokrati-og-medborgerskap/?lang=eng

EU

EUでは、「市民性の能力(Citizenship competence)」について、次のとおり定めています。

市民性の能力(Citizenship competence)

市民性の能力とは、社会的・経済的・法的・政治的概念および構造、ならびに地球規模の発展と持続可能性に関する理解に基づき、責任ある市民として行動し、市民生活や社会生活に十分に参加する能力を指します。

このコンピテンシーに関連する必須の知識、技能、および態度

市民性の能力は、個人、集団、労働組織、社会、経済、文化に関連する基本的な概念や現象に関する知識に基づいています。これには、欧州連合条約第2条および欧州連合基本権憲章に示されている欧州の共通の価値観の理解が含まれます。現代の出来事に関する知識、ならびに国家、欧州、世界史における主要な発展の批判的理解も含まれます。さらに、社会的・政治的運動の目的、価値観、政策、ならびに持続可能なシステム、特に地球規模での気候変動や人口動態の変化とその根本原因についての認識も含まれます。欧州統合に関する知識、および欧州と世界における多様性と文化的アイデンティティへの認識は不可欠です。これには、欧州社会の多文化的・社会経済的側面の理解、ならびに各国の文化的アイデンティティが欧州のアイデンティティにどのように寄与するかの理解が含まれます。

市民性の能力に関する技能は、社会の持続可能な発展を含む、共通または公共の利益のために他者と効果的に関わる能力に関連します。これには、批判的思考と統合的な問題解決能力、議論を展開する技能、地域活動や地方・国家から欧州・国際レベルに至るあらゆる段階での意思決定への建設的参加が含まれます。これには、伝統的・新たなメディア形態へのアクセス能力、批判的理解力、相互作用能力、そして民主主義社会におけるメディアの役割と機能の理解も含まれます。

民主主義の基盤としての人権尊重は、責任ある建設的な姿勢の礎となります。建設的参加とは、あらゆるレベルでの民主的意思決定や市民活動への参加意欲を指します。これには、社会的・文化的多様性、男女平等、社会的結束(social cohesion)、持続可能な生活様式、平和と非暴力の文化の促進、他者のプライバシーを尊重する姿勢(readiness)、環境に対する責任の自覚への支持が含まれます。政治的・社会経済的動向、人道的考慮(humanities)、異文化間コミュニケーションへの関心は、偏見を克服し、必要に応じて妥協し、社会的公正と公平性を確保する準備として必要です。

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https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32018H0604(01)

米国(P21 Framework)

米国(P21 Framework)では、「市民的リテラシー」(Civic Literacy)について、次のとおり定めています。

市民的リテラシー(Civic Literacy)

  • 情報を得る方法を知り、政府のプロセスを理解することで、市民生活に効果的に参加すること
  • 地方、州、国家、そしてグローバルなレベルにおいて、市民としての権利と義務を行使すること
  • 市民の意思決定が地域および世界に及ぼす影響を理解すること

リンク

https://files.eric.ed.gov/fulltext/ED519462.pdf

エストニア

エストニアでは、「社会的・市民的能力」(social and citizen competence)について、次のとおり定めています。

社会的・市民的能力(social and citizen competence)

社会的・市民的能力―自己実現を図る能力; 積極的かつ自覚的で、協力的かつ責任ある市民として行動し、社会の民主的発展ならびにエストニアの国家独立を支えること。社会の価値観や規範を理解し遵守すること。様々な環境における規則や社会の多様性、宗教や民族の特性を尊重すること。異なる状況下で他者と協力すること。人々の違いや価値観を受け入れ、人と関わる際にそれらを考慮に入れること。

リンク

https://www.riigiteataja.ee/en/compare_wordings?grupiId=100391&vasakAktId=524092014014&utm

韓国

韓国では、「市民としての能力」について、次のとおり定めています。

市民としての能力

学生が地域社会、国家、そして地球規模のコミュニティの一員として求められる、開放的で包摂的な価値観と姿勢をもって、持続可能な人間社会の進展に積極的かつ責任を持って貢献できるという、市民としての能力

リンク

https://koreaneducentreinuk.org/wp-content/uploads/2025/04/2022%EA%B0%9C%EC%A0%95%EA%B5%90%EC%9C%A1%EA%B3%BC%EC%A0%95%EC%B4%9D%EB%A1%A0%EC%98%81%EB%AC%B8%ED%8C%90TheNationalFrameworkfortheElementaryandSecondaryCu.pdf

台湾

台湾では、「道徳実践と市民意識」(道德實踐與公民意識)について、次のとおり定めています。

道徳実践と市民意識(道德實踐與公民意識)

道徳的実践の素養を備え、個人の小我から社会の市民へと段階的に進み、社会的責任感と市民意識を養います。公共の課題に積極的に関心を持ち、社会活動に積極的に参加し、エコロジーと人類の持続可能な発展に配慮し、知善・楽善・行善の徳性を発揮します。

リンク

https://www.naer.edu.tw/upload/1/16/doc/288/%E5%8D%81%E4%BA%8C%E5%B9%B4%E5%9C%8B%E6%95%99%E8%AA%B2%E7%A8%8B%E7%B6%B1%E8%A6%81%E7%B8%BD%E7%B6%B1.pdf

スペイン

スペインでは、市民的能力(Competencia ciudadana)について、次のとおり定めています。

市民的能力(Competencia ciudadana)

市民的能力は、生徒たちが責任ある市民としての役割を果たし、社会的・市民的生活に十分に参加することを可能にします。これは、社会的、経済的、法的、政治的な概念や構造の理解、世界情勢に関する知識、そして持続可能性と世界市民の実現への積極的な取り組みに基づいています。これには、市民的リテラシー、人権の尊重に基づく民主主義文化の価値観の意識的な受容、現代の大きな倫理的問題に関する批判的考察、そして2030アジェンダで掲げられた持続可能な開発目標に沿った持続可能なライフスタイルの確立が含まれます。

リンク

https://educagob.educacionfpydeportes.gob.es/curriculo/curriculo-lomloe/menu-curriculos-basicos/ed-primaria/competencias-clave/ciudadana.html

ケニア

ケニアでは、市民権(Citizenship)について、次のとおり定めています。

市民権(Citizenship)

歴史的に、人類は常に共通のアイデンティティに基づいて共同体を形成してきました。こうしたアイデンティティは、経済的、政治的、宗教的、あるいは社会的なものなど、様々な人間のニーズに応えて形成されます。集団としてのアイデンティティが強まるにつれ、それを共有する者たちは自らを共同体として組織化し、共通の価値観を明確にし、自らの信念を支える統治構造を築いていきます。こうした共同体における個人は、自らを市民として認識するのです。

市民権(citizenship)とは、市民としての権利、特権、義務を付与された状態を指します。これは自国への帰属意識と愛着を生み出します。市民意識は、若者が紛争や論争の状況を知識と寛容さをもって対処する力を養う助けとなります。彼らは自らの行動の結果、そして周囲の大人たちの行動の結果を理解することができるのです。

地球市民意識(global citizenship)とは、私たちの世界がますます複雑化する相互接続と相互依存の網であるという認識に基づく生き方です。私たちの選択や行動が、地域・国家・国際レベルで人々やコミュニティに影響を及ぼし得る世界です。地球市民意識は、居住地を問わず個人と他者への敬意を育み、何が公平で正義であるか、また地球への害を最小限に抑えるにはどうすべきかについて、深く批判的に考えるよう促します。

リンク

https://kicd.ac.ke/wp-content/uploads/2019/08/BASIC-EDUCATION-CURRICULUM-FRAMEWORK-2019.pdf

所感

「市民的リテラシー」や「市民性」「市民権」と呼ばれるコンピテンシーは、簡単に言えば、自分の属する社会のルールや価値観について学び、社会の一員としてそれらを守り、社会を維持・発展させていく力のことであると理解しました。

ノルウェーのいうように、民主主義国においては、「相互尊重、寛容、個人の信仰と言論の自由、自由選挙といった基本的な民主主義的価値観」の理解が含まれるのだと思います。

人は社会の中で生きています。なので、自分の属する社会を維持、発展させることが、自分やその周りの人たち、ひいては社会全体のウェルビーイングに繋がります。「市民的リテラシー」や「市民性」「市民権」と呼ばれるコンピテンシーが重視されるのは、そのような理由からであると理解しています。

次回に続きます。

元塾 藤本豪