前回に続き、批判的思考と倫理的意識(Critical thinking and ethical awareness)について、ノルウェーの教育訓練庁の説明を紹介します。

批判的思考と倫理的意識(Critical thinking and ethical awareness)

「批判的思考と倫理的意識」について、ノルウェー教育訓練庁は、以下のとおり説明しています。

ノルウェー教育訓練庁のウェブサイト上の説明から一部を省略して紹介します。)

「学校は、生徒が探究心を持ち(inquisitive)疑問を投げかけ、科学的かつ批判的な思考を育み、倫理的意識をもって行動できるよう支援しなければなりません。

教育と訓練は、生徒に批判的かつ科学的な思考の理解を与えなければなりません。批判的かつ科学的な思考とは、特定の実践的な(practical)課題(challenges)、現象、表現、知識の形(forms of knowledge)に取り組む際に、探究的(inquisitive)かつ体系的な方法で推論を行うこと(applying reason)を意味します。教育と訓練は、現実世界(real world)を検証する手法(methodologies)は、私たちが何を知りたいと思っているか(what we want to study)に応じて決める必要があること、および、私たちが何を理解するか(what we see)について手法の選択が影響することを理解させるものでなければなりません。

新たな知見(insight)を得るためには、確立された考え方(established ideas)を、理論、方法、議論、経験、証拠を用いて精査し(scrutinise)、批判する(criticise)必要があります。生徒は様々な知識源(sources of knowledge)を評価し、知識がどのように構築されるかについて批判的に考察できる能力を身につけなければなりません。また、自身の経験、考え(points of view)、確信(convictions)が不完全あるいは誤っている可能性があることも理解できなければなりません。批判的考察(critical reflection)には知識が必要ですが、不確実性や予測不可能性の余地も存在します。したがって、教育と訓練は、確立された知識への敬意と、新たな知識を発展させるために必要な探求的(explorative)・創造的思考とのバランスを追求しなければなりません。

倫理的意識、すなわち異なる考慮事項(consideration)のバランスを取る能力は、省察的で(reflecting)責任ある人間となるために必要です。教育と訓練は、生徒が倫理的評価を行う能力を育成し、倫理的な問題について深く認識できる(be cognisant)よう支援しなければなりません。

批判的思考と倫理的意識は、さまざまな状況における学び(what it means to learn)の必要条件(requirement)であり、しかも、学びの一部でもあります。したがって、これらは生徒が優れた判断力を育む(develop good judgment)のに役立ちます。職業、専門職、芸術分野における実践的な活動においても、省察し、判断し、評価する能力が求められます。」

所感

批判的思考と倫理的意識の組み合わせ

まず何よりも、「批判的思考」と「倫理的意識」が組み合わされているのが特徴的ですね。他国の例でわりと一般的なのは、批判的思考と「問題解決」を組み合わせたり、批判的思考と「創造的思考」を組み合わせる例です。ノルウェーは、批判的思考と倫理的意識が合わさってはじめて優れた判断(good judgement)になる、と考えているのだと推察します。ここは貴重な示唆を与えてくれるところだと思います。

実践性の重視

「批判的かつ科学的な思考」の定義として、「特定の実践的な課題、現象、表現、知識の形に取り組む際に、探究的かつ体系的な方法で推論を行うこと」と述べています。何が「探究的」で「体系的」な方法なのか書かれていないので、ここだけ読んでも理解が懇談ですが、「実践的」なもののみをターゲットとした定義であることは分かります。

批判的思考のポイント

続いて、批判的思考のポイントとして、以下のことが書かれています。この部分はわりと分かりやすいですね。他の国では、批判的思考の定義において、既存の考え方を批判するということをあまり前面に出さない例が多いのですが、ここでは前面に出しており、ややアグレッシブな内容となっています。だからこそ、「確立された知識への敬意」とのバランスをはかるよう、最後に注意が書かれているのですね。

・ 確立された考え方を、理論、方法、議論、経験、証拠を用いて精査し批判する

・ 知識源(sources of knowledge)を評価し、批判的に考察する

・ 自分の経験、考え、確信が不完全あるいは誤っている可能性があることを理解する

・ 確立された知識への敬意と、新たな知識を発展させるために必要な探求的・創造的思考とのバランスを追求する

倫理的意識とは?

個人的に一番勉強になると思ったのが、「倫理的意識」の定義です。何が「倫理的」であるかは、学問および実践の領域における大論点であり、様々な見解があるところです。あまりに難しい問題なので、定義を書かないまま「倫理的意識を育む」といったことを教育目標に挙げている国が多いように思います。しかし、ノルウェーの教育訓練庁は、しっかりと定義を書いています。同庁によれば、倫理的意識とは、「異なる考慮事項のバランスを取る能力」です。これは非常にうまい定義だと思いました。この定義であれば、特定の価値観を直接的な前提とせず、どのような社会や人にも当てはまりやすいからです。一面的で自分勝手なものの見方や言動をせず、それによって不利益を受ける側のことも考え、バランスを取ることが大切ということですね。

学びの必要条件であり、学びの一部

最後に、批判的思考と倫理的意識は、さまざまな学びの必要条件であり、かつ、学びの一部であるということが書かれています。批判的思考と倫理的意識は、学びにとって必要なことであると同時に、学びによって育まれていくものである、ということですね。ノルウェーがこれらを学びの中心にある重要なコンピテンシーと位置づけていることがわかります。

次回に続きます。

元塾 藤本豪