今回から、ノルウェーの定めるコンピテンシーについて説明してきます。

最初は、「人間の尊厳」(Human dignity)です。

(正確に言うと、ノルウェーは「コンピテンシー」という概念でまとめているのではなく、「教育と訓練の核心的価値」と「教育及び総合的成長のための原則」としていくつかの要素を挙げているのですが、内容としては他の国でいうコンピテンシーに相当するので、このブログでは「コンピテンシー」と書きます。)

「人間の尊厳」(Human dignity)

「人間の尊厳」(Human dignity)について、ノルウェー教育訓練庁は、以下のとおり説明しています。

ノルウェー教育訓練庁のウェブサイト上の説明から一部を省略して紹介します。)

「学校は、人間の尊厳とこれを支える価値観が、教育・訓練および全ての活動の基盤となることを確保しなければなりません。

この目的条項は、人間の尊厳が侵すべからざるものであり、あらゆる差異にかかわらず全ての人々が平等であるという理念に基づいています。教師が生徒への配慮を示し、一人ひとりを認めることで、人間の尊厳は学校と社会における基本的価値として認識されるのです。

人間の尊厳に基づき、人権は私たちの憲法国家(constitutional state)の基盤を成す重要な要素です。これらは、誰であるか、どこから来たか、どこにいるかに関わらず、すべての人々に適用される普遍的価値に基づいています。国連の「児童の権利に関する条約」も人権の一部であり、子どもと若者に特別な保護を与えています。提供される教育と訓練は人権に適合しなければならず、生徒もこれらの権利に関する知識を習得しなければなりません。

平等(equality)と平等な権利(equal rights)は、歴史を通じて戦い取られてきた価値であり、絶えず保護と強化を必要としています。学校はこれらの価値観を守る知識を提示し、態度を促進しなければなりません。全ての生徒は平等に扱われ、いかなる差別も受けないことが求められます。生徒には自立した選択(independent choices)ができるよう、平等な機会も与えられなければなりません。学校は生徒の多様性を考慮し、各生徒が学校や社会に帰属感をもてるよう(to experience belonging)支援すべきです。私たちは皆、周囲の人々と異なり目立つ(stand out)と感じる経験をするかもしれません。だからこそ、違いを認め合い、尊重し合うこと(appreciation)が必要です。

人間は弱く(vulnerable)、過ちを犯すものです。寛容(forgiveness)、慈愛(charity)、連帯(solidarity)は、人間の成長と発展に不可欠な原則です。誰もが自由に考え、信じ、自分を表現できるよう、一人ひとりの信念(convictions)や原則が真摯に受け止められなければ(taken seriously)なりません。生徒たちもまた、人間の尊厳を守ることに貢献し、その侵害を防ぐ方法を自ら考えることが求められます。」

生徒に求められていること

上記は「教育と訓練の核心的価値」として記載された内容であり、学校側、教師側についての内容がメインですが、生徒についての内容(以下の2つ)も含まれています。

・ 生徒もこれらの権利に関する知識を習得しなければなりません。

・ 生徒たちもまた、人間の尊厳を守ることに貢献し、その侵害を防ぐ方法を自ら考えることが求められます。

所感

「人間の尊厳」の重視

様々な要素のうち最初に掲げられていることから、「人間の尊厳」を非常に重視していることが分かります。

「違いを認め合い、尊重し合うこと」

「違いを認め合い、尊重し合うこと」が、人間の尊厳にもとづく、中心的な行為規範ですね。個人的に、これは強調しても強調しきれないほど重要であり、教育の核に据えられるべきと考えています。なぜなら、違いが認められず尊重されない環境では、一人ひとりが自分らしく成長していくことが阻まれ、その人のウェルビーイングの面でも、能力の発達の面でも、大きなマイナスになるからです。

平等・権利の獲得の歴史と維持強化の必要性

「平等と平等な権利は、歴史を通じて戦い取られてきた価値であり、絶えず保護と強化を必要としています。」という部分も、一人ひとりが常に意識しているべき、重要な点ですね。

「人間は弱く、過ちを犯すもの」

個人的には、「人間は弱く、過ちを犯すものです。寛容、慈愛、連帯は、人間の成長と発展に不可欠な原則です。誰もが自由に考え、信じ、自分を表現できるよう、一人ひとりの信念や原則が真摯に受け止められなければなりません。」という最後の部分が、とても興味深いと感じました。

「一人ひとりの価値観や考え方を尊重する必要がある」というのは多くの国で言われていることですが、尊重せよと言われても、自分とは違う価値観や考え方を尊重するのは、実際にはそう簡単なことではありません。人間の自然な本性は、自分とは異なるものを排除しようとするもののように思われます(だからこそ教育が必要なわけです)。

この点、ノルウェーの教育訓練庁は、人間は弱く、過ちを犯すものだから、寛大で愛ある心をもって互いに協力していく必要がある、ということを述べています。自分とは違う価値観や考え方を尊重できるようになるためには、「寛大で愛ある心をもって互いに協力していく」という考えが重要であり、その考えは「人間は弱く、過ちを犯すもの」だという認識に立脚することによって強固なものになる、と考えているのではないかと推察します。

これはキリスト教の発想だと思いますが(ノルウェーはキリスト教の伝統を重視している国です(ノルウェー王国憲法第2条)。)、キリスト教から切り離されても通じる普遍性をもっているのではないでしょうか。

能力を伸ばすことばかり考えていると、「人間は弱く、過ちを犯すもの」という認識を失い、一番重要な「人間の尊厳」という意識が欠け落ちてしまいがちです。だからこそ、「人間の尊厳」を認識し、一人ひとりの価値観や考え方を尊重することも「能力」(コンピテンシー)の一つであると位置づけていくべきであると、個人的に考えています。(自戒も込めて。)

次回に続きます。

元塾 藤本豪