これまで、THE STRAITS TIMESの2025年2月14日の記事の内容を、シンガポールの「21世紀のコンピテンシー」(21st Century Competencies)の内容とともに紹介してきました。今回は、そのまとめです。

シンガポールの教育のこれまでの発展

シンガポールの教育システムは、これまで大きく分けて3段階にわたって発展してきました。

第1段階(国として生き延びるための教育) 国として独立して間もない、初期の段階

①国民が就職に必要なスキルを身につける、②新たなシンガポール人としてのアイデンティティを築く、③民族間の団結を育む

第2段階(長期的な経済成長を確保するための教育) 1970年代から1990年代

能力別クラス編成、特別な才能のある(giftedな)子供のための特別措置

第3段階(イノベーションを迅速に実現できる人材を育てるための教育) 1997年以降、現在に至るまで

生徒が事実についての知識(factual content)をどれだけ知っているかではなく、情報を分析し判断する能力を伸ばすことに焦点を移す

シンガポールの教育の目標とする人物像

シンガポールの教育システムが育てようとしているのは、次のような特徴をもつ人々です。

・ 自信をもつ個人(confident persons)

・ 自己主導型(self-directed)の学習者

・ 積極的な貢献者

・ 関心をもつ市民(concerned citizens)

シンガポールのコンピテンシー

シンガポールの教育省は、その定めたコンピテンシーのことを、「21世紀のコンピテンシー」(21st Century Competencies)と呼んでいます。

中核的価値観(core values)

尊重、責任、強靭性(resilience)、誠実さ(integrity)、思いやり(care)

社会的・感情的コンピテンシー

・ 自己認識(Self-Awareness)

・ 自己管理(Self-Management)

・ 責任ある意思決定(Responsible Decision-Making)

・ 社会的意識(Social Awareness)

・ 人間関係の調整(Relationship Management)

21世紀の新たなコンピテンシー

・ 批判的、適応的、創造的思考(Critical, Adaptive and Inventive Thinking)

・ コミュニケーション、協働、情報スキル(Communication, Collaboration and Information Skills)

・ 市民的、グローバル、異文化理解力(Civic, Global and Cross-Cultural Literacy)

強化された21世紀のコンピテンシー(The Enhanced 21st Century Competencies)

適応的・創造的思考(adaptive and inventive thinking)、コミュニケーション、市民リテラシー(civic literacy)に重点

将来への展望

2025年5月までシンガポールの教育相であったChan Chun Sing氏は、以下のように語っています。

学生に過度のプレッシャーをかけることを避ける必要がある。

OECDが実施するようなテストは、現在の能力を測定するものであるが、未来に必要な新しいスキルを測定することはできない。

「学生が潜在能力を最大限に発揮できるよう支援する一方で、学校教育において成績に過度に焦点を当てたり、エリート育成に走ったりすることは、好奇心や学びへの愛を潰すことになる。」

真のテストは、生徒たちが学校での最初の15年間で互いを上回るかどうかではなく、次の50年間で自分自身を不断に超えていくかどうかである。

そのうえで、次の2つの転換を進めると述べています。

(1) 多様な能力、ニーズ、興味、志向に応じた教育の個別化を継続的に支援する

(2) 社会として、学校や教科書を超えた学びを積極的に取り入れる。学校が私たちの世界であってはならない。代わりに、世界が私たちの学校となるべきである

そして、これらの転換を進める中でも、二言語主義(bilingualism)は、シンガポールの教育システムの基盤として維持されなければならない、と述べています。

Chan Chun Sing氏はまた、次のように語っています。

「私たちは、卓越性を追求する姿勢を維持しつつ、開かれた、継続的で、思いやりのある能力主義を堅持しなければならない。

『十分良い』で満足してはならない。私たち一人一人が、学問の分野であれ、他の分野であれ、自身の可能性を最大限に発揮するよう努めなければならない。

「不確実な世界において、私たちは、単に『同じことを適切に』行うのではなく、『正しいこと(right thing)を適切に』行うことを求められる。

社会が教育者への尊重を示すかどうかが、教育者の質を決定し、それが教育システムの質を形づくる。

教育は本質的に人間的な取り組みである。それは人々を導き、価値観、生活スキル、国民意識、そして人々の結束感を育むものである。したがって、資金や技術だけでは、教育者が提供する指導や個人的なつながりを代替することはできない。教育者に対する私たちの態度と行動が、次世代の教育に携わる人々の質を決定する。

おわりに

これまで数回にわたって、シンガポールの教育のことを書いてきました。

シンガポールと日本は、国の成り立ちも、歴史も、規模も、産業構造も文化も、大きく異なります。なので、これまで書いてきたことの中には、日本で参考にならない部分もあることでしょう。(とくに、能力主義を前面に押し出すアグレッシブさは、日本の学校教育では採用できないのではと思います。二言語主義も難しいですね。)

しかし、VUCA対応、イノベーション重視という時代の要請や、ソーシャルメディアの普及、AI技術の発展といった外部環境は、日本にも共通するものです。「不確実な世界において、私たちは、単に『同じことを適切に』行うのではなく、『正しいこと(right thing)を適切に』行うことを求められる。」、「多様な能力、ニーズ、興味、志向に応じた教育の個別化を継続的に支援する」、「学校が私たちの世界であってはならない。代わりに、世界が私たちの学校となるべきである。」といった言葉は、現在の日本の学校教育が進んでいる方向(平成29年・30年・31年告示の学習指導要領と、現在改訂中の学習指導要領)と概ね一致しているのではないでしょうか。個人的には、示唆に富み参考になるものであると思いました。

これでシンガポールについての記事を終わります。次回からは、カナダのコンピテンシーについて紹介しようと思います。

元塾 藤本豪