前回に続き、OECDのSkills that Matter for Success and Well‑being in Adulthood(成人期の成功とウェルビーイングにとって重要なスキル)という報告書(「本報告書」)について紹介します。
「仕事や生活において、社会情動的スキルはどのように報われるのか?」(How are social and emotional skills rewarded in work and life?)という章の紹介の続きです。

仕事や生活において、社会情動的スキルはどのように報われるのか?
リンク:
OECD (2025), Skills that Matter for Success and Well-being in Adulthood: Evidence on Adults' Social and Emotional Skills from the
2023 Survey of Adult Skills, OECD Skills Studies, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/6e318286-en.
原著作と翻訳の間に相違がある場合、原著作の文言のみが有効とみなされます。
社会情動的スキルと賃金
「膨大な文献により、社会情動的スキルが賃金と関連していることが示されています(Alderotti, Rapallini and Traverso, 2023[12]; Cabus, Napierala and Carretero, 2021[5]; Nyhus and Pons, 2005[13])。全体として、賃金と勤勉性、情緒的安定性、外向性、経験への開放性との間には正の相関関係があり、賃金と協調性との間には負の相関関係があることが、確固たる証拠によって示されています。」(61頁)
「2023年成人技能調査の結果は、参加国の多く(ただし全てではありません)において、これらの関係を裏付けています(図3.4)。情緒的安定性は、オーストリア、アイルランド、イスラエル、ラトビア、リトアニア、シンガポール、スロバキア共和国を除く全ての国・経済圏で、賃金と正の相関関係を示しています。外向性は17カ国で正の相関関係を示し、11カ国では賃金との関連性が認められていません。勤勉性は10カ国で賃金と正の相関関係を示し、ポーランドでは負の関連性が見られます。一方、経験への開放性は12カ国で賃金と正の相関関係を示しています。協調性は9カ国で賃金と負の関連性を示しています。」(61頁)
「情緒的安定性、外向性、勤勉性は、多くの国において、教育やリテラシーを調整した後でも賃金との正の相関関係を維持しています。ただし、リテラシーの影響と比較すると、これらの領域の賃金に対する正味の効果は小さいといえます。リテラシーが1標準偏差上昇すると賃金が9%増加するのに対し、OECD諸国平均では、情緒的安定性、外向性、勤勉性の向上は、それぞれ賃金を2.8%、2.6%、1.9%押し上げるにとどまります。」(61頁)
「これらの関係性は、標準的なミクロ経済理論とよく整合しています。勤勉性と情緒的安定性は、信頼性、持続性、ストレス管理といった生産性を高める行動と密接に関連しており、理論上は高い賃金によって報われると考えられます。外向性はコミュニケーションやチームワークを促進し、現代のサービス経済において特に強く求められるスキルです。これに対して、高い協調性は、賃金交渉や昇進競争において不利に働く可能性があります。」(61頁)
「同時に、社会情動的スキルと賃金の関連性は、職業選択によって媒介されている可能性があります。社会情動的スキルは職業選択に影響を与え、異なる職業は異なる賃金水準や賃金の推移を持ちます。例えば、外向性は高賃金の管理職やリーダー職への参入を促進する一方で、協調性は介護活動など、平均以下の賃金水準の職種への選択を促す可能性があります(Alderotti, Rapallini and Traverso, 2023[12])。」(64頁)
「OECD諸国全体で見ると、平均的に、ビッグファイブの技能領域の合計は賃金変動の1.5%を説明しています。これは勤続年数(1.3%)や専攻分野(2.6%)の寄与度と同程度ですが、リテラシー(4.3%)の寄与度よりは小さいものです。観察された要因の中では、教育達成度(educational attainment)が賃金変動に最も大きく寄与しており、その割合は8.8%に達しています。」(64頁)
「ビッグファイブの特性の中では、自己主張性(assertiveness)が賃金との関連性が最も強いことが示されています(図3.6)。データが利用可能なOECD諸国全体の平均では、この特性が1標準偏差上昇すると、教育や認知能力を考慮する前の段階では賃金が4.8%上昇し、これらの要因を考慮した後でも3.2%の上昇と関連しています。抑うつ傾向の低さや組織能力の高さも、賃金と正の相関を示しています。経験への開放性の領域では、知的好奇心は高い賃金と関連する一方で、創造的想像力は低い賃金と関連しています。後者の結果は、創造的な個人が芸術、文化、非営利分野の職業を選択する傾向を反映している可能性があります。これらの職業は一般に経済的報酬が低い傾向があります。」(65頁)
社会情動的スキルと雇用形態
「2023年成人技能調査の結果は、社会情動的スキルが自営業者となる可能性と関連していることを示しています(図3.7)。具体的には、外向性は、イングランド(英国)、ニュージーランド、ノルウェーを除く全ての国・経済圏において、自営業となる確率と正の相関関係を示しています。OECD平均では、この領域が1標準偏差上昇すると、自営業者となる確率が2.5パーセントポイント高まります。経験への開放性は、15の国・地域で自営業者となる確率と正の相関を示しています。残るビッグファイブの領域については、国によって起業家精神との関連性が弱く、一貫性に欠けています。」(66頁)
「さらに、職業によって労働者の社会情動的スキルの平均水準が著しく異なることも示されています(図3.8)。例えば、営業、マーケティング、開発管理職は、OECD諸国全体で平均的に外向性が高く、小学校教員や幼児教育者は平均的に協調性が高いことが示されています(図3.8パネルA)。また、事務職や専門秘書職はOECD全体で平均的に勤勉性が高く、製造、鉱業、建設、流通の管理職は平均的に情緒的安定性が高い傾向にあります(図3.8パネルB)。」(66頁)
「これらの差異は、職業文化や業務要件によっても形成されており、特定の社会情動的スキルを強化する一方で、他のスキルを抑制する可能性があります。例えば、チームワーク、問題解決、コミュニケーションを伴う職務は、経験への開放性や協調性を育む一方で、反復的または高度に定型化された業務では、こうした特性を発達させる機会が少なくなります。さらに、職業上の階層構造や労働条件は、これらのスキルの発現の仕方や評価のされ方にも影響を与えます。例えば、リーダーシップ職は、高いレベルの自己主張性を要求すると同時に、それを育成する役割も果たします。」(66頁)
社会情動的スキルと仕事の満足度
「仕事の満足度(job satisfaction)は、職務や職場環境の特性だけでなく、個人の社会情動的特性によっても形成されます。特に、情緒安定性と外向性は、仕事の満足度の高さと正の相関関係にあります(図3.9)。この関係性は、外向性と仕事の満足度の間に有意な関連性が認められないデンマークとニュージーランドを除き、ほぼ全ての参加国・経済圏で確認されています。」(69頁)
「仕事の満足度は、職務や職場環境の特性だけでなく、個人の社会情動的特性によっても形成されます。特に、情緒安定性と外向性は、仕事の満足度の高さと正の相関関係にあります(図3.9)。この関係性は、外向性と仕事の満足度の間に有意な関連性が認められないデンマークとニュージーランドを除き、ほぼ全ての参加国・経済圏で確認されています。」(69頁)
「仕事の満足度は、しばしば個人と環境の適合という観点から理解されます。すなわち、個人の性格が職場環境や職務要求とよく一致している場合、その人は満足する可能性が高くなります(Kristof-Brown, Zimmerman and Johnson, 2005[14])。別の説明としては、社会情動的スキルが職場における感情や行動の調整能力を支えることによって、仕事の満足度に寄与すると考えられています(Bakker and de Vries, 2020[15]; Kang and Malvaso, 2023[16])。情緒安定性と外向性と仕事の満足度との間に、多様な国や職種で一貫して見られる正の相関関係は、この見解を支持しています。これらのスキルは、対人関係の状況をうまく乗り切り、職場のストレスを管理する個人の能力を高め、特定の職務や国の文脈に左右されることなく、より高い満足度に寄与する可能性があります。」(69頁)
長くなったので、いったんここで切ります。
所感
「賃金と協調性との間には負の相関関係がある」というのが、軽くショックでした。小さい頃から協調性が大事だと教えられ、自分の受けてきた学校教育(日本の学校教育)でのでも協調性に重点が置かれていたと思うのですが、それがOECD全体の傾向としては賃金と負の相関関係にある要素だったとは。。。
なぜ協調性の高さと賃金の高さが負の相関関係にあるかという理由については、賃金交渉や昇進競争において不利に働く可能性があるためと述べられています。
また、創造的想像力(creative imagination)が低い賃金と関連しているというのも意外でした。教育の分野では、創造性を伸ばすことに力を入れるべき、という意見が多いです。OECDの別の報告書にも、「各国は、創造性、コミュニケーション、問題解決、持続可能性、市民性を中核的学習に統合しようとする改革などを通じて、横断的コンピテンシーをカリキュラムに組み込んでいます。」と書かれていました。それなのに、創造的想像力が低い賃金と関連しているとは。。。
その理由としては、創造的な個人が芸術、文化、非営利分野の職業を選択する傾向を反映している可能性があるとされています。
もっとも、社会情動的スキルが賃金にもたらす影響はリテラシーの影響よりも小さく、もっとも影響するのは教育達成度(educational attainment、高卒か、大卒か、大学院卒か、といった教育レベル)であるとのことです。
「仕事の満足度は、しばしば個人と環境の適合という観点から理解されます。すなわち、個人の性格が職場環境や職務要求とよく一致している場合、その人は満足する可能性が高くなります。」という指摘は、なるほどと思いました。
次回に続きます。
元塾 藤本豪


