前回に続き、OECDのSkills that Matter for Success and Well‑being in Adulthood(成人期の成功とウェルビーイングにとって重要なスキル)という報告書(「本報告書」)について紹介します。
今回から、「仕事や生活において、社会情動的スキルはどのように報われるのか?」(How are social and emotional skills rewarded in work and life?)という章の内容を紹介します。

仕事や生活において、社会情動的スキルはどのように報われるのか?
リンク:
OECD (2025), Skills that Matter for Success and Well-being in Adulthood: Evidence on Adults' Social and Emotional Skills from the
2023 Survey of Adult Skills, OECD Skills Studies, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/6e318286-en.
原著作と翻訳の間に相違がある場合、原著作の文言のみが有効とみなされます。
「今日の知識主導型社会において、認知スキルは仕事と人生の成功に不可欠な基盤であり続けています。成人技能調査の2サイクルの結果は、リテラシー、数的能力、問題解決スキルが、成人の雇用可能性、賃金、生活満足度、健康、市民参加の重要な決定要因であることを示しています(OECD, 2019[1];2024[2])。従来、政策や研究では認知スキルがより重視されてきましたが、近年では、社会情動的スキルも主要な人生の成果を形成する上で重要であるという認識が高まっています(Edin et al., 2022[3];Izadi and Tuhkuri, 2024[4])。仕事がよりダイナミックでサービス志向になるにつれ、社会的環境をナビゲートし、効果的に協働する能力は、あらゆる分野・職種にわたる労働者にとって重要な資産として浮上しています。職場を超えて、情緒的安定性、共感力、柔軟性に関連するスキルは、個人の幸福と社会への積極的参加を支える上で極めて重要な役割を果たしています。」(57頁)
社会的・感情的スキルは労働市場においてどのように重要なのか?
「社会情動的スキルは、個人が雇用にアクセスし、キャリアを積み上げ、労働生活をどのように経験するかに影響を与える可能性があります。例えば、外向性は面接や専門的なネットワーキングにおけるパフォーマンスを高めることで、個人が職を得る能力を向上させるかもしれません。雇用された後は、勤勉性に関連するスキルが、効果的なチームワーク、高い生産性、優れた職務遂行を支えます。これらは、しばしば高い賃金や昇進の機会という形で報われる要素です。社会情動的スキルは、個人が従事する職種や業界の種類にも影響を及ぼす可能性があります。例えば、起業の成功は、創造的な想像力や経験への開放性に依存することが多いです。一方で、情緒的安定性は、個人の職場体験の質を形成し、職務満足度や職場における総合的な幸福感に影響を与えます。」(57頁)
社会的・感情的スキルと雇用状況
「2023年成人技能調査の結果によると、成人の社会情動的スキルは雇用状況と関連しています(図3.1)。参加国・地域のほぼ全てにおいて、教育達成度やリテラシーなどの他の要因を調整した後でも、情緒的安定性と外向性が高い個人は、失業中または非労働人口であるよりも、雇用されている可能性が高いことが示されています。この傾向の例外として、外向性と雇用状況との有意な関連性が認められない国としてデンマーク、フィンランド、ニュージーランドが挙げられ、また、情緒的安定性と雇用状況との有意な関連性が認められない国として、イスラエル、韓国、シンガポールが挙げられます。さらに、参加国の約半数では、勤勉性も雇用されている可能性と正の相関を示しています。これに対して、経験への開放性は、クロアチア、イングランド(英国)、イスラエル、ラトビア、ポーランドでのみ正の相関関係を示し、フィンランドとスウェーデンでは負の関連性を示しています。協調性は、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランドでは雇用と負の相関を示し、その他の国・地域では雇用状況との有意な関連性は確認されていません。」(58頁)
「これらの傾向は、労働市場においてスキル領域がどのように表現され、認識されているかの違いを反映している可能性があります。外向性や情緒的安定性は、面接やネットワーキングなどの対人場面において特に顕在化しやすい特性です。外向的な人物は、エネルギッシュで説得力があり、社交的であるように見られやすく、こうした特性は面接でのパフォーマンス向上や就職機会の拡大につながります。同様に、情緒的に安定した人物は、落ち着きや回復力を示すことが多く、雇用主にとって信頼性を示す重要なシグナルとなり得ます。一方で、勤勉性は採用プロセスでは直接観察されにくく、実際の職務遂行の中でより顕著に現れる傾向があります。しかし、このスキル領域は、個人が就職活動を継続する能力や、採用後に雇用を維持する能力に影響を与える可能性があります。」(58頁)
「同時に、観察された関係性は、雇用状況の原因ではなく結果を部分的に反映している可能性もあります。例えば、失業状態や労働力人口からの離脱は、主観的幸福感、日常生活、社会的交流に悪影響を及ぼし、その結果として情緒的安定性、勤勉性、外向性の低下につながる可能性があります。本分析では、ビッグファイブ特性が雇用状況に与える影響と、雇用状況が特性に及ぼす逆の影響とを明確に区別することはできません。先行研究によれば、雇用状況と社会情動的スキルとの関係には、双方の因果メカニズムが同時に作用している可能性が高いとされています(Boyce et al., 2015[8];Engelhardt, 2017[9];Uysal and Pohlmeier, 2011[10])。」(58頁)
「さらに、本結果は、社会情動的スキルが雇用状況と有意な関連性を持ち、その関連性の大きさが認知的スキルと同程度であることを示唆しています。OECD諸国全体の平均では、リテラシーが1標準偏差向上すると、社会情動的スキルや教育達成度を含む他の特性を調整した後でも、雇用される確率が4パーセントポイント高くなります。これに対して、外向性や情緒的安定性が向上すると、教育、リテラシー、その他の特性を調整した後でも、それぞれ雇用確率が約3パーセントポイント上昇します。」(58頁)
「分析はまた、社会情動的スキルと雇用状況との関係の強さが、国や経済圏によって異なることを示しています。こうした国際的な差異は、コミュニケーションや自己表現に関する文化的規範の違いと関連している可能性があります。これらの規範は、社会情動的スキルが労働市場においてどのように表現され、認識され、評価されるかを左右します。また、これらのスキルのシグナリング機能や、雇用主が教育達成度と比較してそれらをどの程度重視するかの違いを反映している可能性もあります。教育資格が個人の能力を十分に示す指標とならない国では、雇用主は社会情動的スキルを反映する観察可能な行動をより重視する傾向があります。一方で、教育資格が職務遂行に必要なスキルを明確に示す文脈では、雇用主はこうした特性にあまり注目しない可能性があります。」(58頁)
「ビッグファイブのより細分化された側面の中では、エネルギーレベルと生産性が雇用状況との関連性が最も強いことが示されています(図3.2)。教育とリテラシーを考慮した後でも、エネルギーレベルが1標準偏差上昇すると、雇用される可能性は4パーセントポイント高まり、生産性についても、ファセットレベルのデータが利用可能なOECD諸国全体で平均3パーセントポイントの上昇が確認されています。抑うつ傾向が低いほど雇用される可能性はやや高くなり、組織化傾向が高いほど雇用される可能性はわずかに低下します。美的感受性、思いやり、敬意といったファセットは、教育とリテラシーを調整した後、雇用可能性との間に弱い負の関連性を示しています。」(60頁)
「これらの結果は、生産的で、情緒的に安定し、活力のある個人ほど、雇用を見つけ、維持する能力が高いことに起因している可能性があります。また、雇用されている個人が、非就業者や失業者と比べて、平均的により活力があり、生産的で、情緒的に安定しているという傾向を反映している可能性もあります。」(60頁)
「認知能力が十分に備わっていない個人にとっては、社会情動的スキルが雇用可能性に与える影響はやや強い傾向があります(図3.3)。特に、外向性、情緒的安定性、勤勉性といった特性と雇用可能性との正の相関関係は、リテラシーが低い成人(レベル1以下)において、より顕著に現れます。OECD諸国全体では、平均的に見ると、これらの相関はいずれも、リテラシーレベルが3以上の成人と比べて、このグループにおいて約2パーセントポイント高くなっています。」(61頁)
「これらの知見は、社会情動的コンピテンシーが、リテラシーが限定的な個人にとって、労働市場における代償的な資産として機能し得ることを示唆しています。外向性が高く、勤勉で、情緒的に安定した個人は、高いリテラシーを有していなくても、より意欲的に行動し、雇用を確保する能力が高い可能性があります。さらに、低スキル職を募集する雇用主は、信頼性、適応性、顧客対応能力の指標として、こうした行動特性を特に重視する傾向があります。これに対して、高いリテラシーを持つ成人の場合、雇用主は認知的シグナルのみに基づいて就業準備度をより確信を持って評価できるため、社会情動的スキルがもたらす付加価値は相対的に小さくなる可能性があります。」(61頁)
長くなったので、いったんここで切ります。
所感
興味深い内容が書かれていますが、ここでも述べられているとおり、社会情動的スキルの高さが雇用につながったのか、それとも雇用されていることが社会情動的スキルの高さにつながったのかは不明であるということに、注意が必要です。後者の面を考慮し、割り引いて考える必要があるでしょう。(とくに、情緒安定性については、雇用されていなければ情緒安定性が低くなるであろうと容易に想像できます。)
少し意外に感じたのは、「協調性は、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランドでは雇用と負の相関を示し、その他の国・地域では雇用状況との有意な関連性は確認されていません。」という部分です。本報告書の調査対象に日本は入っていないため分かりませんが、日本では異なる結果になるのでしょうか。
また、「美的感受性、思いやり、敬意といったファセットは、教育とリテラシーを調整した後、雇用可能性との間に弱い負の関連性を示しています。」という部分も、読んで「そうなのかぁ。。。」と思いました。雇用に関しては、人間性の良さがあまり評価されていないということなのでしょうか。それとも、美的感受性、思いやり、敬意の高い人は、協調性が高く、外向性が低くなるため、それらの影響と相殺されて、弱い負の関連性になるのでしょうか。いろいろなことが考えられると思います。
次回に続きます。
元塾 藤本豪


