前回に続き、OECDのSkills that Matter for Success and Well‑being in Adulthood(成人期の成功とウェルビーイングにとって重要なスキル)という報告書(「本報告書」)について紹介します。
今回も、「社会情動的スキルとは何か、なぜ重要なのか?」という章に書かれた内容の紹介です。
社会情動的スキルとは何か、なぜ重要なのか?
以下では、本報告書の「社会情動的スキルとは何か、なぜ重要なのか?」という章に書かれた内容のうち、特に興味深いと思ったものを紹介していきます。
リンク:
OECD (2025), Skills that Matter for Success and Well-being in Adulthood: Evidence on Adults' Social and Emotional Skills from the
2023 Survey of Adult Skills, OECD Skills Studies, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/6e318286-en.
原著作と翻訳の間に相違がある場合、原著作の文言のみが有効とみなされます。

社会情動的スキルの可塑性
「社会情動的スキルは、遺伝的要因と環境的要因の両方に影響を受けます。双子研究、家族研究、養子研究の結果に基づくメタ分析によれば、ビッグファイブ領域における個人差の約60%は環境的影響に起因し、約40%は遺伝的要因によって説明されます(Vukasović and Bratko, 2015[64])。したがって、これらのスキルは固定された特性ではなく、家庭環境、社会的文脈、または重大な人生の出来事によって形成される可能性があります。さらに、トレーニング、教育、子育て実践、特定の活動への参加といった意図的な介入を通じて、意図的に変化させることが可能です。この意図的な変化への感受性こそが、これらのスキルへの投資を実行可能かつ価値あるものにしています。」(19頁)
「研究によれば、幼少期と思春期は社会情動的スキルの発達において特に敏感な時期です。これらの段階では脳の高い可塑性が示され、教育、子育て、社会環境といった外的影響に特に敏感に反応します(Cantor et al., 2018[65]; Steponavičius, Gress-Wright and Linzarini, 2023[23])。このため、社会情動的スキルを育成または強化するプログラムは、通常、人生の早い段階で介入が行われます。」(19頁)
「プログラムは学校で提供されることが多く、社会情動的スキルの発達を日常的な教育体験に統合するよう設計されています。これには、感情の調節、共感、協調といったスキルを、CASELのような包括的枠組みのもとで明示的に教える取組が含まれます。さらに多くの学校では、社会情動的発達を支える支援的かつ包摂的な環境を育むことを目的として、教育実践、懲戒戦略、学校風土を整合させる全校的な取組を実施しています。教員研修と職員開発も重要な要素であり、教育者がこれらのスキルを効果的に教え、強化するための手段を提供します(プログラム例はボックス1.2参照)。」(19-20頁)
「社会情動的スキルを促進することを目的とした学校ベースの介入の有効性に関する研究は、比較的短期間のトレーニング後であっても、これらのスキルに有意な変化が生じていることを示しています。Ciprianoら(2023[66])による包括的なメタ分析(53か国424研究、57万5千人以上の生徒を対象)では、こうした介入が生徒の社会情動的スキル、態度、利他的行動を著しく向上させることが示されています。ただし、プログラム内容、実施の質、学校環境などの文脈的要因によって成果は大きく異なります。全体として、プログラム設計の特徴が効果を強く左右します(Cipriano et al., 2023[66])。いわゆるSAFE原則(Sequenced、Active、Focused、Explicit)に沿ったプログラムは、特に高い効果を生むことが実証されています。」(20頁)
「子どもや青少年の社会情動的学習を促進するプログラムは、ビッグファイブ性格特性と密接に対応する能力の向上に効果があることが示されています。Steponavičius、Gress-Wright、Linzarini(2023[26])による最近の文献レビューでは、74件の学校ベース介入研究の証拠に基づき、社会情動的スキルを教授可能性の観点から分類しています。本研究では、責任感、持続性、自己制御、ストレス耐性、楽観性、感情制御、自己主張、ならびに協調性、信頼、共感といったスキルについて、中程度から非常に高い水準の教授可能性に関する証拠が存在すると結論づけています。一方で、経験への開放性の側面である好奇心と創造性の教授可能性に関する実証的証拠は不明確であり、社交性の教授可能性に関する知見は限定的でした。」(20頁)
「幼少期は重要な時期ですが、社会情動的スキルは成人期まで柔軟に変化し続けます。Robertsら(2017[67])によるメタ分析では、200件以上の研究を統合し、臨床的および非臨床的介入の結果として成人のビッグファイブ性格特性がどのように変化するかを検討しています。この分析により、介入によって性格特性が変化することが明らかになりました。ビッグファイブの中では情緒的安定性が最も変化しやすく、次いで外向性、誠実性、協調性が、統計的に有意ではあるものの比較的緩やかな変化を示しました。経験への開放性は最も変化が小さい特性でした。重要な点として、これらの変化は介入直後にとどまらず、6~12か月後の追跡調査においても持続していました。この証拠は、ビッグファイブ特性が時間を超えて安定した特性であるとする従来の見解に異議を唱えるものです。」(20頁)
「さらに、生徒の社会情動的学習に関する研究では、教師自身の社会情動的スキルの発達にも注目が集まっています。これは、大人が子どもに同様のスキルを身につけさせる前提として、自らが強い社会情動的コンピテンシーを有している必要があるためです。これらの研究は概して、教員研修や対象を絞った介入が、教師の社会情動的スキルを変容させ得ることを示しています(Jennings et al., 2017[68]; Oliveira et al., 2021[69])。例えば、Oliveiraら(2021[69])は、3,004名の教師を対象とした43件の学校ベース介入研究をレビューし、これらの介入が教師の社会情動的能力や心理的苦痛に有意な影響を与えたことを明らかにしました。さらに、Oliveiraら(2021[70])による別のメタ分析では、教師の社会情動的スキルを対象とした介入が、バーンアウト症状を有意に軽減することが示されています。」(20頁)
ボックス1.2 RULER:社会情動的学習を支援する全校的介入プログラム(21頁)
イェール大学感情知性センター(the Yale Center for Emotional Intelligence)が開発したRULERプログラムは、就学前から高校までの全学校コミュニティに社会情動的学習を定着させる、体系的かつエビデンスに基づくアプローチです。RULERは、以下の5つの基礎的感情知性スキル(foundational emotional intelligence skills)を優先しています。
- 自分自身と他者の感情を認識する
- 感情の原因と結果を理解する
- 微妙なニュアンスを含む語彙で感情を表現する
- 文化的・社会的文脈に即した感情表現
- 効果的な戦略を用いて感情を調節する
これらのスキルは、以下の4つの核心的ツールを通じて育成されます。
- チャーター(Charter):共同で作成された合意文書であり、共有されるコミュニティ規範を明示する
- ムードメーター(Mood Meter):感情を名付け、振り返るための視覚的ツールである
- メタ・モーメント(Meta-Moment):思慮深い感情的反応を可能にする内省の時間である
- ブループリント(Blueprint):共感と建設的な対話を促進する紛争解決の枠組みである
導入は通常、学校管理者、教育者、職員、家族向けの研修から始まります。学校ではしばしばRULER導入チーム(RIT; RULER Implementation Team)が結成され、このアプローチの地域における推進役となります。ツールを日常の実践、カリキュラム、学校文化に組み込む役割を担います。継続的なコーチング、オンラインリソース、コミュニティとの連携が、組織全体におけるSELの持続可能性を支えます。
RULERの効果は、無作為化比較試験を含む複数の厳密な評価によって十分に実証されています(Cipriano et al., 2019[71]; Hagelskamp et al., 2013[72])。RULERを導入した学校では、学業成績や授業参加意欲の向上、生徒の社会的スキルおよびリーダーシップ能力の強化、攻撃性や注意問題の減少、健全な学校環境の構築、生徒の不安や抑うつ水準の低下などが報告されています。
CASELにより『SELect Program』として認定されたRULERは、設計、実施支援、持続可能性の面で高い基準を満たしており、世界3,500校以上で導入され、100万人以上の生徒に提供されています。
出典:https://rulerapproach.org/(2025年8月21日アクセス)」
所感
社会情動的スキルは教育等によって伸ばすことができるとのことです。「ビッグファイブ領域における個人差の約60%は環境的影響に起因し、約40%は遺伝的要因によって説明されます」との記載があります。
この点、「幼少期と思春期は社会情動的スキルの発達において特に敏感な時期」であり、「社会情動的スキルを促進することを目的とした学校ベースの介入の有効性に関する研究は、比較的短期間のトレーニング後であっても、これらのスキルに有意な変化が生じていることを示しています。」とのことです。学校での教育が非常に重要ということですね。
教授可能性(教えて伸ばすことができる度合い)についていうと、責任感、持続性、自己制御、ストレス耐性、楽観性、感情制御、自己主張、ならびに協調性、信頼、共感といったスキルは、中程度から非常に高い水準の教授可能性を持っているとのことです。他方、好奇心と創造性(経験への開放性の中の要素)の教授可能性に関する実証的証拠は不明確であり、社交性の教授可能性に関する知見は限定的であるとのことです。好奇心、創造性、社交性は、教えて身につくものではないのかも知れない、ということですね。
社会情動的スキルは、成人になった後にも伸ばすことが可能とのことです。調査によれば、ビッグファイブの中で最も変化しやすいのは情緒的安定性であり、次いで外向性、誠実性、協調性が、統計的に有意ではあるものの比較的緩やかな変化を示したとのことです。他方。経験への開放性は最も変化が小さい特性だったとのことです。
「教師の社会情動的スキルを対象とした介入が、バーンアウト症状を有意に軽減することが示されています。」というのも、非常に重要な指摘ですね。
個人的に、イェール大学感情知性センター(the Yale Center for Emotional Intelligence)のRULERプログラムが、とても興味深いと思いました。
次回に続きます。
元塾 藤本豪


