前回に続き、OECDのSkills that Matter for Success and Well‑being in Adulthood(成人期の成功とウェルビーイングにとって重要なスキル)という報告書(「本報告書」)について紹介します。

今回も、「社会情動的スキルとは何か、なぜ重要なのか?」という章に書かれた内容の紹介です。

社会情動的スキルとは何か、なぜ重要なのか?

以下では、本報告書の「社会情動的スキルとは何か、なぜ重要なのか?」という章に書かれた内容のうち、特に興味深いと思ったものを紹介していきます。

リンク:

https://www.oecd.org/en/publications/skills-that-matter-for-success-and-well-being-in-adulthood_6e318286-en.html

OECD (2025), Skills that Matter for Success and Well-being in Adulthood: Evidence on Adults' Social and Emotional Skills from the

2023 Survey of Adult Skills, OECD Skills Studies, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/6e318286-en.

原著作と翻訳の間に相違がある場合、原著作の文言のみが有効とみなされます。

主要な人生成果の推進要因としての社会情動的スキル

「社会情動的スキルと以下で言及する多くの成果との関連性は、しばしば非線形であることが示されている点に留意が必要です(例:Rammstedt, Lechner and Danner (2024[30]))。多くの場合、特定のスキルは一定の水準まで高めることで有益ですが、それを超えると追加的な向上は収穫逓減をもたらすか、むしろ悪影響を及ぼす可能性があります。」(17-18頁)

「社会情動的スキルは、さまざまな学業成果に影響を与えることが示されています。特に、組織的で粘り強く責任ある行動の傾向である勤勉性は、異なる教育段階における成績や標準化テストの成績を予測する因子です(Poropat, 2009[31]; Almlund et al., 2011[32]; Mammadov, 2021[33])。経験への開放性も学業成績に影響を与えることが示されています(Almlund et al., 2011[32])。OECDのSSES調査結果も同様の方向性を示しており、達成動機、持続性、責任感、自制心といった勤勉性と密接に関連する特性、および好奇心が、より高い成績および欠席・遅刻の低水準と関連していることが明らかになっています(OECD, 2024[34])。重要な点として、社会情動的スキルの効果は、IQ、推論能力、処理速度などの認知能力の効果とは独立しています(Borghans et al., 2016[35]; Noftle and Robins, 2007[36]; Rammstedt, Lechner and Danner, 2024[30])。」(18頁)

「さらに、社会情動的スキルは、より高い教育達成度(higher educational attainment)とも関連しています(Cobb-Clark et al., 2019[37]; Cunha, Heckman and Schennach, 2010[38])。これは特に、経験への開放性、勤勉性、情緒的安定性において顕著です。加えて、感情的知性が大学中退リスクの低下と関連していることを示唆する証拠もあります(Qualter et al., 2009[39])。社会情動的スキルは、職場における非公式な学習(Cerasoli et al., 2017[40])や、成人教育・学習への参加(Laible, Anger and Baumann, 2020[41]; Sörman et al., 2024[42])とも関連しています。」(18頁)

「さまざまな社会情動的スキルが、個人の労働市場における機会や所得に影響を与えることが明らかになっています。勤勉性と情緒的安定性は、フルタイムで雇用される可能性の高さと関連しています(Rammstedt, Lechner and Danner, 2024[30])。これらのスキルは、経験への開放性とともに、より高い所得とも関連しています(Cabus, Napierala and Carretero, 2021[43])。外向性、すなわち社交的で人付き合いが良い特性は、雇用される可能性や起業家になる可能性の向上と関連しています(Brandstätter, 2011[44]; Izadi and Tuhkuri, 2024[28]; Schoon and Duckworth, 2012[45])。労働経済学の豊富な文献は、自己統制感、すなわち個人が自らの人生を支配できると信じる度合いが、より高い所得、より速い所得成長、より良い雇用機会、失業後のより短い失業期間など、多くの労働市場成果と結びついていることを示しています(Cobb-Clark, 2015[46])。自信、社会的協調性、自己効力感、達成感といった他の特性も、労働市場での成功に寄与することが示されています(OECD, 2015[9]; Steponavičius, Gress-Wright and Linzarini, 2023[26])。認知スキルを調整した後でも、社会情動的スキルが雇用成果に与える影響は依然として持続します(Rammstedt, Lechner and Danner, 2024[30])。ただし、教育および認知スキルを調整した場合、ビッグファイブ領域が所得に及ぼす効果は比較的小さい点には留意が必要です(Alderotti, Rapallini and Traverso, 2023[47]; Rammstedt, Lechner and Danner, 2024[30])。」(18頁)

「社会情動的スキルが高いほど健康状態が良好であるという証拠は豊富にあります。協調性、勤勉性、情緒的安定性は、喫煙やアルコール乱用のリスク低下など、さまざまな健康的行動と関連しています(Strickhouser, Zell and Krizan, 2017[48])。これらの関連は、認知能力を含むさまざまな個人特性を考慮した後でも、自己申告による全般的な健康状態と正の相関を示します(Rammstedt, Lechner and Danner, 2024[30])。一方で、外向性は精神的および一般的な健康との関連性が比較的弱く、身体活動との関連性が高いことが示されています(Strickhouser, Zell and Krizan, 2017[48])。OECDのSSES調査では、社会情動的スキル、特に楽観性、達成動機、持続性、責任感が、学生の健康的な行動と関連していることが示されています(OECD, 2024[34])。さらに、他の研究では、社会情動的スキルが若年層の肥満リスクの低下と関連していることも示されています(OECD, 2015[9])。」(18-19頁)

「社会情動的スキルは、人々の感情や人生の捉え方にも影響を与えます。多くの研究が示すように、社会情動的スキル、特に協調性、勤勉性、情緒的安定性、自己制御は、より高い生活満足度と関連しています(Rammstedt, Lechner and Danner, 2024[30]; Strickhouser, Zell and Krizan, 2017[48])。これらの特性は、高い職務満足度とも関連しています(Cobb-Clark et al., 2022[49]; Judge, Heller and Mount, 2002[50])。さらに、外向性、協調性、勤勉性、情緒的安定性は、孤独感と負の相関を示します(Buecker et al., 2020[51])。OECDのSSES調査結果によれば、楽観性、活力、ストレス耐性、感情制御は、10歳および15歳の生徒における生活満足度の向上と関連しています。これらの特性は肯定的な身体イメージも支えており、楽観性、達成動機、持続性、責任感は、生徒の人間関係に対する満足度と正の相関関係を示しています(OECD, 2024[34])。」(19頁)

「社会情動的スキルは個人の成果に影響を与え、それらの総体は社会が適切に機能するために重要です。こうした成果には、反社会的行動および社会的行動、犯罪、政治的・市民的生活への参加などが広く含まれます。多くの証拠は、協調性、勤勉性、情緒的安定性の低さが、アルコール・薬物乱用、ギャンブル、いじめ、攻撃性、犯罪行為などと関連していることを示唆しています(Dash et al., 2019[52]; Jolliffe and Farrington, 2022[53]; Jones, Miller and Lynam, 2011[54]; Mitsopoulou and Giovazolias, 2015[55])。一方で、協調性は援助行動や共感と正の相関を示します(Graziano and Habashi, 2010[56]; Habashi, Graziano and Hoover, 2016[57]; Mooradian, Davis and Matzler, 2011[58])。市民活動に関しては、外向性と情緒的安定性が高いほど、投票、候補者への寄付、候補者や政党へのボランティア活動、政治集会への参加の可能性が高くなることが分かっています(Furnham and Cheng, 2019[59]; Gerber et al., 2011[60])。また、外向性と協調性は、ボランティア活動を予測する因子であることが示されています(Ackermann, 2019[61]; Capra, Jiang and Su, 2021[62]; Omoto, Packard and Ballew, 2020[63])。」(19頁)

所感

「多くの場合、特定のスキルは一定の水準まで高めることで有益ですが、それを超えると追加的な向上は収穫逓減をもたらすか、むしろ悪影響を及ぼす可能性があります。」と書かれています。社会情動的スキルを伸ばすのは良いことですが、伸ばしすぎると逆に悪影響をもたらす可能性があるとのことです。

因果関係なのか相関関係なのかという点に注意する必要があると思いますが、社会情動的スキルが多方面に及ぼす影響についていろいろ書かれており、だいたい常識的な内容だなと思いました。ここに書かれている、各方面に影響を与える社会情動的スキルをまとめると、次のとおりです。

学業成果、教育達成度: 勤勉性、経験への開放性、情緒的安定性

労働、所得: 勤勉性、情緒的安定性、経験への開放性、外向性、自己統制感(すなわち個人が自らの人生を支配できると信じる度合い)、自信、社会的協調性、自己効力感、達成感

(ただし、教育および認知スキルを調整した場合、ビッグファイブ領域が所得に及ぼす効果は比較的小さいとのこと)

健康: 協調性、勤勉性、情緒的安定性、楽観性、達成動機、持続性、責任感

(一方で、外向性は精神的および一般的な健康との関連性が比較的弱く、身体活動との関連性が高い)

生活満足度: 協調性、勤勉性、情緒的安定性、自己制御、外向性、楽観性、活力、ストレス耐性、達成動機、持続性、責任感

社会的行動: 協調性、勤勉性、情緒的安定性、外向性

次回に続きます。

元塾 藤本豪