前回に続き、OECDのSkills that Matter for Success and Well‑being in Adulthood(成人期の成功とウェルビーイングにとって重要なスキル)という報告書(「本報告書」)について紹介します。
今回も、「社会情動的スキルとは何か、なぜ重要なのか?」という章に書かれた内容の紹介です。

社会情動的スキルとは何か、なぜ重要なのか?
以下では、本報告書の「社会情動的スキルとは何か、なぜ重要なのか?」という章に書かれた内容のうち、特に興味深いと思ったものを紹介していきます。
リンク:
OECD (2025), Skills that Matter for Success and Well-being in Adulthood: Evidence on Adults' Social and Emotional Skills from the
2023 Survey of Adult Skills, OECD Skills Studies, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/6e318286-en.
原著作と翻訳の間に相違がある場合、原著作の文言のみが有効とみなされます。
社会的・感情的スキルの定義
「政策や研究では、社会情動的スキルを説明するために、さまざまな概念が用いられてきました。これらは、非認知スキル、ソフトスキル、21世紀スキル、雇用適性スキル、横断的スキル、ライフスキル、人格スキル、あるいは性格特性などと呼ばれてきました(Jones et al., 2016[8])。時を経て、「社会情動的スキル」という用語が、これらのスキルの包括的呼称として広く認知されるようになり、二つの重要な目的を果たしています。第一に、従来の認知的スキルとの区別を明確にします。認知的スキルが知識の習得、情報のアクセス・解釈・考察といった知的能力に関わるのに対し、社会情動的スキルは、他者との関わりや協働(社会的側面)、目標達成のための自己の感情や行動の制御(情緒的側面)に関わります。第二に、この用語は、認知的スキルと同様に、これらの特性もスキルであることを明確にします。すなわち、それらは個人の幸福や社会経済的進歩に寄与し、意味のある測定が可能です(OECD, 2015[9])。」(13頁)
「OECDは、社会情動的スキルを次のように定義しています。「(a) 思考、感情、行動の一貫したパターンとして現れ(manifested in consistent patterns of thoughts, feelings and behaviours)、(b) 公式・非公式の学習経験を通じて発達し(developed through formal and informal learning experiences)、(c) 個人の生涯にわたる社会経済的成果の重要な推進力となる(important drivers of socio-economic outcomes throughout the individual’s life)、個人の能力」(OECD, 2015, p.35[9])。この定義は、社会情動的スキルが、思考・行動・感情の形成に影響を与える比較的安定した潜在特性であることを強調しています。これらは、、親から受け継ぐ割合の高い(highly heritable)属性(性格特性(personality traits)、性向(dispositions)、信念(beliefs)、価値観(values)、気質(temperament)、自己認識(self-perceptions)など)を含みますが、同時に「学習可能」(learnable)であり、従来の認知スキルと同様に、時間をかけて育成することができます。教えられる性質と、仕事や人生の成功への影響力の大きさから、政策検討において極めて重要です。」(13頁)
性格特性ビッグファイブモデル(The Big Five model of personality)
「1990年代から2000年代にかけて、ビッグファイブモデルに関する研究は急増しました。さまざまな種類のサンプルや方法論的アプローチにおいて、その妥当性と信頼性が広範な研究によって確認されました(McCrae and Costa, 2003[11])。さらに、さまざまな国、文化、言語の文脈において、このモデルの再現性が数多くの研究によって実証されました(McCrae and Costa, 1997[12])。加えて、心理学、社会学、教育学、経済学など、さまざまな分野において、このモデルが分析目的に非常に有用であり、さまざまな生活領域における結果を効果的に予測できることが明らかになりました(Roberts et al., 2007[13])。今日では、ビッグファイブの枠組みは、最も広く受け入れられ、一般的に使用されている性格特性の枠組みとなっています。」(13頁)
「ビッグファイブの領域は以下のとおりです(Costa and McCrae, 1992[15]; John, Naumann and Soto, 2008[10])。
- 協調性(Agreeableness):他者に対する利他的で共同的な指向性を指す。この特性の水準が高い個人は、利他主義、思いやり、信頼、協力、謙虚さに向かう傾向がある。逆に、協調性の低い個人は自己利益に駆られ、他者の動機に対して懐疑的である可能性が高く、競争的で挑発的になりやすい。
- 勤勉性(Conscientiousness):衝動を抑制し、課題や目標指向の行動を促進する傾向を指す。勤勉な個人は慎重に計画を立て、規範や規則に従い、快楽を遅らせる能力が高い。自己制御力、組織力、野心、持続力に優れる一方、勤勉性が低い場合は衝動性、先延ばし、ずさんさを意味しうる。
- 情緒安定性(Emotional stability):平穏な気質と前向きな情緒性を指す。水準が高い個人は感情や気分を制御できるが、低い場合は不安や抑うつ、気性の荒さに向きやすい。
- 外向性(Extraversion):活力に満ちた行動志向的な人生観を示す。外向的な人は他者との交流を好み、自己主張が強く社交的である。水準が低い場合は社会的関与やエネルギー水準が低く、静かで控えめな傾向が強い。
- 経験への開放性(Openness to experience):独創性と複雑性を指す。水準が高い個人は想像力豊かで新しい経験を好むが、低い場合は伝統や具体的事実を重視し、現実的である。」(14頁)
「ビッグファイブの各領域は、極端な性格タイプの二分法ではなく、行動傾向の連続体(スペクトラム)を表します。個人は各領域で高得点または低得点を示し、その領域に関連する行動の表現度合いの差異を反映します。」(14頁)
「図1.1は、OECD調査において社会情動的スキルを測定するために採用されたアプローチをまとめたものです。幼児期から青年期、成人期に至るまで、人生の異なる段階にある回答者を対象としたさまざまな調査で測定されるスキルの広範な範囲は、学術文献で探求される概念の多様性を反映しており、あらゆる年齢層における社会情動的スキルの重要性を強調しています。」(15頁)

「OECD調査は一般的に、政策介入に反応する可塑性のある社会情動的スキルを対象としています。しかし、最近のOECDレビューでは、これらのスキルの教授可能性の程度には差異があることが示されています(Steponavičius, Gress-Wright and Linzarini, 2023[26])。例えば、自己制御、自己主張、共感、感情制御といったスキルは高い教育可能性を示している一方で、信頼、楽観性、視点の取り入れといったスキルについては中程度の教育可能性が実証されています。これらの知見を踏まえ、SSES 2026では、特に学校ベースの介入に反応しやすいと証明されたスキルを優先的に取り上げます。」(16頁)
「本報告書の残りの部分では、「ビッグファイブ領域」「社会情動的スキル」「性格特性」という用語は、互換的に使用されます。」(16頁)
「まず重要なのは、ビッグファイブは規範的モデルではなく、記述的モデルであるという点です。このモデルは、人間がどのように振る舞うべきかという理論から導かれたものではなく、性格記述の統計的分析、すなわち因子分析から生まれたものです。特定の性格特性を「良い」または「悪い」と評価するものではなく、ある特性をより多く持つことが必ずしも望ましいと仮定するものでもありません。」(17頁)
「実際、ビッグファイブの各領域における差異は、肯定的・否定的な意味合いの両方を併せ持ちます。例えば、外向性の高さは過信や表面的な人間関係と関連し得ますし、協調性の高さは従順さにつながる可能性があります。高い情緒安定性は無関心と受け取られることがあり、極端な勤勉性は完璧主義、極端な経験への開放性は非現実的とみなされる可能性があります。一方で、外向性の低さは謙虚さや静かな内省を、協調性の低さは独立心の高さを、情緒安定性の低さは感受性の鋭さを、勤勉性の低さは自発性や気楽さを、経験への開放性の低さは現実的で地に足のついた姿勢を示唆し得ます。」(17頁)
「さらに、研究によれば、同一の特性が、異なる生活領域において望ましい結果と望ましくない結果の両方に関連付けられることが示されています。例えば、外向性はリーダーシップ(Judge et al., 2002[27])や雇用機会の向上(Izadi and Tuhkuri, 2024[28])と関連する一方で、薬物使用やギャンブルといったリスク行動とも関連しています(O’Connell, 2023[29])。」(17頁)
「本報告書の結果は横断的回帰分析に基づくものであり、社会情動的スキルと人生の成果との間に存在する真の因果関係を反映していない可能性があります。したがって、報告された関係性は、これらのスキルの因果的影響としてではなく、相関関係(associations)として解釈されるべきです。」(17頁)
長くなったので、今回はここで切ります。
所感
社会情動的スキルという言葉の定義について、OECDは、「(a) 思考、感情、行動の一貫したパターンとして現れ、(b) 公式・非公式の学習経験を通じて発達し、(c) 個人の生涯にわたる社会経済的成果の重要な推進力となる、個人の能力」という定義づけています。「思考、感情、行動の一貫したパターンとして現れ」という部分で認知スキルを除外しているのですね。
社会情動的スキルは、親から受け継ぐ割合の高い属性(性格特性、性向、信念、価値観、気質、自己認識など)を含むものの、同時に「学習可能」(learnable)であり、従来の認知スキルと同様に、時間をかけて育成することができるとのことです。
OECDは、社会情動的スキルの調査において、性格特性ビッグファイブモデル(The Big Five model of personality)というモデルを用いています。これは、協調性(Agreeableness)、勤勉性(Conscientiousness)、情緒安定性(Emotional stability)、外向性(Extraversion)、経験への開放性(Openness to experience)という5つの要素につき、それぞれの度合いを測定するものです。
測定するのは度合いであって、「外向的か内向的か」といった性格タイプの二分法ではありません。また、「外向性が高いから優れている」といった一面的なものではなく、同一の特性が、異なる生活領域において望ましい結果と望ましくない結果の両方に関連付けられることが示されているとのことです。
そして、本報告書を読むうえで重要なのは、「本報告書の結果は横断的回帰分析に基づくものであり、社会情動的スキルと人生の成果との間に存在する真の因果関係を反映していない可能性があります。したがって、報告された関係性は、これらのスキルの因果的影響としてではなく、相関関係として解釈されるべきです。」ということです。本報告書が最も伝えたいメッセージは、「将来成功しやすくなるために、ウェルビーイングを実現しやすくなるために、社会情動的スキルを伸ばしましょう」ということなのだと思うのですが、本報告書で書かかれた調査結果は、相関関係を示すものに過ぎず、因果関係を示すものではない。本報告書のこの限界を頭に入れておく必要があります。
次回に続きます。
元塾 藤本豪


