前回に続き、OECDのSkills that Matter for Success and Well‑being in Adulthood(成人期の成功とウェルビーイングにとって重要なスキル)という報告書(「本報告書」)について紹介します。

「政策はどのようにして全ての人の社会情動的学習を支援できるか?」(How can policies support social and emotional learning for all?)という章の続きです。

政策はどのようにして全ての人の社会情動的学習を支援できるか?

リンク:

https://www.oecd.org/en/publications/skills-that-matter-for-success-and-well-being-in-adulthood_6e318286-en.html

OECD (2025), Skills that Matter for Success and Well-being in Adulthood: Evidence on Adults' Social and Emotional Skills from the

2023 Survey of Adult Skills, OECD Skills Studies, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/6e318286-en.

原著作と翻訳の間に相違がある場合、原著作の文言のみが有効とみなされます。

社会的弱者層(disadvantaged groups)における社会情動的学習の支援

「労働市場における既存の不平等を助長するのを防ぐため、スキル水準の低いグループを対象とした社会的・情緒的学習(社会情動的学習(SEL))を強化する、対象を絞った介入の必要性が浮き彫りになっています。各国では、低社会経済的背景の若者、移民・難民、失業者、学歴の限られた成人など、排除のリスクがあるグループを対象としたプログラムにSELを組み込む政策や取組が模索されてきました。」(113頁)

「多くの教育制度では、恵まれない子どもたちが豊かな家庭環境の恩恵を受けにくい傾向にあることを認識し、幼児期および初等教育段階での介入を導入しています。例えば、対象を絞った就学前プログラムには、自己調整能力、共感力、コミュニケーション能力を促進する要素が頻繁に含まれています(Calhoun et al., 2020[17])。学校では、メンタリング、個別指導、課外活動にSELを組み込み、脆弱な立場の学習者が自信と粘り強さを育む支援が行われています(Cipriano and McCarthy, 2023[18])。職業教育訓練(VET)や高等教育では、代表性の低いグループに属する学生を支援するため、個別対応型のキャリアガイダンス、カウンセリングサービス、ピアメンタリングプログラムが導入されています(Helms et al., 2021[19])。雇用・社会サービスも重要な役割を担っており、積極的労働市場プログラムでは、就職準備態勢や対人スキル向上を目的としたSELモジュールが組み込まれています。」(114頁)

「社会情動的スキルにおける社会経済的格差に対処するため、政策は義務教育へのSELプログラムの統合を優先し、社会経済的背景にかかわらず、全ての児童がこれらの必須能力を平等に習得できる基盤を確保すべきです。こうしたプログラムは、不利な立場の学習者が主体性を発揮し、協働し、創造性を発揮するよう促す環境を創出する必要があります。このアプローチは、職業訓練、高等教育、生涯学習プログラムにおけるSELの発達を支援することで、正規教育を超えた不平等に対処し続ける政策によって補完されるべきです。」(114頁)

「本報告書は、2023年成人技能調査に参加した大半の国・地域において、移民は平均的に、生まれながらの成人よりも勤勉性、協調性、経験への開放性が高いことを示しました(第4章参照)。ただし、一部の国では、移民は情緒安定性と外向性が低い傾向にあります。さらに調査結果によれば、移民は高い読解力を欠く場合が多く、これはコミュニケーションに関連する社会情動的スキルに悪影響を及ぼす可能性があります(OECD, 2018[22])。政策においては、言語学習・統合プログラムへのSELの組み込みを目指すことで、学習者に言語能力だけでなく、感情的知性、レジリエンス、対人スキルを身につけさせることも可能です。」(114–115頁)

「2023年成人技能調査で観察された社会情動的スキルにおける最大かつ最も一貫した差異は、教育達成度の異なる成人間で認められました。教育達成度の低い成人は、ほとんどの国において、協調性、勤勉性、情緒安定性、外向性、経験への開放性の水準が低くなっています(第4章参照)。これらの知見は、特に高等中等教育修了資格を持たない成人を対象とした成人教育・訓練プログラムにSELを統合する必要性を浮き彫りにしています。さらに、SELモジュールは、求職支援、カウンセリング、スキルアッププログラムなど、失業者を支援する積極的労働市場政策に組み込むことが可能です。効果的な戦略には、対象を絞ったアウトリーチ、金銭的インセンティブ、成人教育機関、雇用サービス、地域雇用主間の緊密な連携を含めるべきであり、SELの育成が関連性とアクセス可能性を備え、労働市場のニーズに沿うことを保証する必要があります。」(115頁)

「2023年成人技能調査および多数の先行研究が示す「ビッグファイブ」領域における各国間の一貫した性別差は、ジェンダー包摂的なSELに向けた二重の政策アプローチを必要としています。政策は、男女が幅広い社会情動的スキルを習得する機会の均等を促進すると同時に、教育・訓練・職場環境を適応させ、多様な社会情動的特性を受け入れ、活用できるようにすべきです。例えば教育分野では、政府がSELを学校カリキュラムに組み込み、女子が自信、リーダーシップ、リスクテイク能力を構築するよう促すと同時に、男子が共感力、協調性、感情調節能力を育む支援を行います。職場では、採用、昇進、業績評価システムを見直し、従来「男性的」とされてきた断固たる態度やリスクテイクといったスキルのみを優先するのではなく、より広範な社会的・情緒的強みを評価対象に含めるよう構造を適応させることが可能です。」(116頁)

職場における社会情動的スキルの育成

「組織が急速な技術変化、新たな労働形態、顧客対応型サービスモデルに適応するにつれ、職場における社会情動的スキルの育成への関心は着実に高まっています(Mehler et al., 2024[23]; Poláková et al., 2023[24])。多くの雇用主は既に、社会情動的学習(SEL)の要素を新入社員研修、顧客サービス訓練、管理者育成に組み込んでいます。OECDの研究では、欧州5か国の100企業における職場研修戦略が調査されました(OECD, 2021[25])。その結果、ソフトスキル研修は、技術的・実践的・職務関連スキル研修、健康・安全・セキュリティ研修に次いで、企業において3番目に頻繁に提供される研修であることが示されました。こうした研修は通常、コミュニケーションとフィードバック、対立マネジメント(conflict management)、チーム内協力、リーダーシップおよびマネジメントスキルに焦点を当てています。」(116頁)

「一部の国では、労働力育成プログラムにおいてSELを明示化するため、国家スキルフレームワークを活用しています。その一例として、カナダが採用する「成功のためのスキル(Skills for Success)」モデル(ボックス5.3参照)が挙げられます。別の例としては、米国労働省・教育省による雇用可能性のためのスキル枠組み(Employability Skills Framework)があり、雇用可能性に不可欠な社会情動的スキル(例:批判的思考、対人スキル)を定義するとともに、提供者向けの実装ツールキットを提供しています。さらに、業界代表者(sectoral representatives)や徒弟制度(apprenticeship systems)も、職業基準(occupational standards)においてSELの成果を明示し始めています(OECD, 2024[28])。このようにSELを正式に制度化することで、雇用主が従業員の社会情動的スキルの開発により注意を払うよう促すことができます。」(116–117頁)

「しかし、提供状況には依然として格差があります。大企業は中小企業(SME)よりも体系的な研修を提供する傾向が強く、研修は累積的というよりも断片的な場合が多いとされています(EUROSTAT, 2020[29])。OECDの追加調査結果によれば、大企業は中小企業よりも管理スキル研修を提供する傾向が強い一方で、チームワーク重視の研修提供における差異は小さいことが示されています(OECD, 2021[25])。さらに、情報通信部門および金融部門の企業は、他産業の企業よりも研修を提供する傾向が強いとされています。」(117頁)

所感

前回、カナダの「成功のためのスキル」(Skills for Success)について少し言及しましたが、米国の「雇用可能性のためのスキル枠組み」(Employability Skills Framework)も、興味深いです。関心がおありの方は、次のURLのリンク先をご覧ください。

https://lincs.ed.gov/state-resources/federal-initiatives/employability-skills-framework

https://s3.amazonaws.com/PCRN/docs/ESF-2.0-Employability-Skills-Analysis-and-Synthesis-Report.pdf

次回に続きます。

元塾 藤本豪