前回に続き、OECDのEducation Policy Outlook 2025(「本報告書」)の中で特に興味深いと感じた内容を紹介します。
今回は、定年直前期の教育についてです。長くなったので、今回、次回、次々回の3回に分けます。

定年直前期(55-64歳)の教育
リンク:
https://www.oecd.org/en/publications/education-policy-outlook-2025_c3f402ba-en.html
OECD (2025), Education Policy Outlook 2025: Nurturing Engaged and Resilient Lifelong Learners in a World of Digital Transformation, OECD Publishing, Paris,
https://doi.org/10.1787/c3f402ba-en.
原著作と翻訳の間に相違がある場合、原著作の文言のみが有効とみなされます。
「定年前段階(通常55歳から64歳)は、生涯学習における第四の決定的な分岐点です。社会の高齢化と退職時期の遅延による労働寿命の延長に伴い、この段階について政策上の重要性が新たに高まっています(OECD, 2024)。この年齢層以上の成人のスキル育成は、個人・社会・経済のレジリエンスを支える上で不可欠です。2030年までに、OECD平均では人口の25%が65歳以上となる見込みです(2021年の18%から増加)(OECD, 2024)。」(29頁)
「技能水準の低い高齢化社会は、社会にとって重大な課題です。過去10年間、多くの参加国・経済圏において成人の技能水準は低下または停滞しています。PIAACによれば、退職間近の55~65歳の成人は、全年齢層の中でリテラシー、数的リテラシー、適応的問題解決能力の平均習熟度が最も低いです(図1.8参照)。何十年も正式な教育から離れていたため、多くの人が学習への再参加に障壁に直面しています(OECD, 2024)。しかし技能の低下は、避けられないものでも、均一なものでもありません。例えばドイツのPIAAC結果の追加分析では、ホワイトカラーや教育程度の高い(higher educated)労働者は、特に職場環境が定期的な技能活用を促す場合、高齢期まで技能を発展させ続けていることが示されています(Hanushek et al., 2025)。」(29頁)
「しかしながら、技能低下への対策における主要な障壁は、さらなる訓練の必要性が認識されていないことであり、これが学習意欲を阻害しています(OECD, 2024)。雇用主や個人は、この年齢層の退職までの期間が短いことから投資対効果を限定的に見て、学習意欲に影響を与える可能性もあります(Picchio, 2015)。したがって、より長く健康な人生と並行して、人生の後半における学習の価値を再定義し、年齢を包含する規範を育むことが不可欠です(OECD, 2024)。この段階の成人を支援することは、退職後も学習および主体性を維持することにつながります。」(29頁)
「第5章で示すように、各国は財政的インセンティブと有給研修休暇を組み合わせ、高齢者に合わせた短期間・モジュール式・積み重ね可能なコースを提供しています。また、メンタリング、世代間学習、段階的退職を通じて、年齢を問わない職場環境の中に生涯学習を組み込んでいます。並行して、政府は蓄積された経験や転用可能なスキルを評価するガイダンスと認定メカニズムの強化を図っています。アクセスの改善のため、多くの政策ではバウチャーや補助金、モジュール式の短期コースを提供すると同時に、地域ハブや個別対応型デジタル研修を通じたデジタル包摂を推進しています。こうした取り組みは、高齢者の多様なニーズと、参加を促す要素としての自信・関連性・柔軟性の重要性を認識しているように見えます。
しかし、実施面では課題が残ります。自信、関連性の認識、組織文化が晩年のキャリア関与を強く形作るという証拠があるにもかかわらず、動機付けが明示的な政策目標となることは稀です。既習経験の認定も限定的であり、研修や採用における年齢バイアスは根強く、学習と健康・ウェルビーイングの関連性は未発達なままです。
効果を高めるためには、政策努力は経験の価値評価、年齢包摂的な職場環境の強化、ガイダンスと地域支援の拡充、そして退職後を含む円滑な移行を支援する認定の仕組みの制度化に焦点を当てるべきです。」(29頁)
所感
2030年までに、OECD平均では人口の25%が65歳以上となる見込み(2021年の18%から増加)とのことです。高齢化の進展はOECD加盟国の多くに共通する課題です。高齢化社会では、退職年齢が伸び、労働寿命が長くなります。数十年前は60歳で引退できていたのが、70歳まで働く必要が出てくる訳です。(そうでないと、退職後の人生を支えるだけの経済的基盤を築くのが難しい。) そのため、定年直前期(55-64歳)以上の成人のスキル育成が、「個人・社会・経済のレジリエンスを支える上で不可欠」といえます。
この年齢層の教育で最大の課題は、本人たちが学習の必要性を認識していないこと、学習へのモチベーションがない(あるいは低い)ことです。この点、上記のとおり、退職までの期間が短いことから投資対効果を限定的に見て、学習意欲に影響を与える可能性もあると指摘されています。
「退職間近の55~65歳の成人は、全年齢層の中でリテラシー、数的リテラシー、適応的問題解決能力の平均習熟度が最も低い」というのは、当たり前の話ですよね。人間、30代以降は年を経るにつれ体力、気力とも衰えていくのが普通ですので。(私(藤本)ももうすぐこの年齢層に差し掛かる年ですので、よくわかります。)
しかし、希望もあります。ドイツのPIAAC結果の追加分析では、「ホワイトカラーや教育程度の高い(higher educated)労働者は、特に職場環境が定期的な技能活用を促す場合、高齢期まで技能を発展させ続けていることが示されている」とのことです。55歳から高齢期にかけての人々にとっても、学び続けることが大切ということですね。
次回に続きます。
元塾 藤本豪


