前回に続き、OECDのSkills that Matter for Success and Well‑being in Adulthood(成人期の成功とウェルビーイングにとって重要なスキル)という報告書(「本報告書」)について紹介します。

「成人集団における社会情動的スキルの分布状況は?」(How are social and emotional skills distributed in the adult population?)という章の紹介の続きです。

成人集団における社会情動的スキルの分布状況は?

リンク:

https://www.oecd.org/en/publications/skills-that-matter-for-success-and-well-being-in-adulthood_6e318286-en.html

OECD (2025), Skills that Matter for Success and Well-being in Adulthood: Evidence on Adults' Social and Emotional Skills from the

2023 Survey of Adult Skills, OECD Skills Studies, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/6e318286-en.

原著作と翻訳の間に相違がある場合、原著作の文言のみが有効とみなされます。

親の教育(parental education)に関連する社会情動的スキルの差異

「社会経済的背景(Socio-economic background)は、児童期から成人期に至るまで、幅広い人生の成果に影響を与えることが示されています。より恵まれた背景を持つ子どもは、読解力、数学、科学の成績が優れており、より高いレベルの教育を受けて修了し、より良い健康状態を享受し、より高い幸福度を報告する傾向があります(OECD, 2023[12])。同様に、恵まれた背景を持つ成人は、高いリテラシーと数的能力、より高い教育達成度、より良い身体的・精神的健康状態、そして労働市場におけるより大きな成功を享受する傾向があります(OECD, 2024[13])。こうした格差は、高い社会経済的地位を持つ親が、通常、子どもに対してより良い物質的資源、より大きな支援、より豊かな環境を提供できることに起因するとされています。加えて、社会的・文化的資本も、幼少期から子どもの発達を形作ると考えられています(Boudon, 1974[14]; Breen and Goldthorpe, 1997[15]; Erikson et al., 2005[16]; Lucas, 2001[17])。」(91頁)

「OECDの研究によれば、社会経済的背景の影響は、認知的・教育的成果にとどまらず、若者の社会情動的スキルにも及びます。例えば、PISAの結果は、15歳生徒の創造的思考における成績が、社会経済的地位と関連していることを示しています(OECD, 2024[18])。また、OECDの社会情動的スキル調査(SSES)によれば、経済的・社会的・文化的地位が高い生徒は、好奇心、寛容性、創造性、責任感、自制心、持続性、達成意欲、社交性、自己主張力、活力、共感力、信頼感、ストレス耐性、楽観性、感情制御など、評価対象となったすべての社会情動的スキルにおいて、恵まれない背景を持つ生徒と比較して高い水準を示しています(OECD, 2024[19])。」(91頁)

教育水準の低い家庭の成人は、平均的に経験への開放性が低い

「2023年成人スキル調査の結果は、親の教育達成度(parental educational attainment)が成人期に至るまで社会情動的スキルに影響を与えることを裏付けています(図4.6)。本分析では、少なくとも一方の親が高等教育を修了した成人(高い教育達成度の親を持つ成人)と、親が最高でも中等教育を修了した成人(低い教育達成度の親を持つ成人)の2群を比較しました。結果によれば、高い教育達成度の親を持つ成人は、参加国・地域全体で平均的に経験への開放性が高いことが示されています。外向性についても同様の差が全参加国・地域で確認されましたが、カナダ、チリ、チェコ、イタリア、ニュージーランド、ポルトガルでは有意差は認められませんでした。さらに、12の参加国・地域では、情緒安定性も親の教育達成度と正の相関を示しました。」(91頁)

「これらの結果は、これまでの知見と概ね一致しています。Sutinら(2017[20])の研究によれば、教育程度の高い親(highly educated parents)を持つ成人は、教育程度の低い親(lower-educated parents)を持つ成人と比べて、開放性、外向性、情緒安定性が高いことが示されています。一方で、親の教育達成度(educational attainment)は勤勉性とは関連していませんでした。これらの知見は、養子縁組者のサブサンプルにおいても再現されており、環境的メカニズムが共有遺伝因子と同様に重要であることを示唆しています。」(93頁)

「親の教育と社会情動的スキルの発達との関係は、質の高い教育へのアクセス、幼児期の経験、親の養育方法など、多くの要因によって媒介される可能性があります。回答者の教育達成度やその他の社会人口統計学的特性の差異を考慮すると、親の教育による社会情動的スキルの差異は大幅に縮小し、これらの要因が観察された格差の重要な経路であることが示唆されます。しかし、これらの要因を調整した後でも、開放性における差異は参加国・経済圏全体(ポルトガルを除く)で有意に残り、外向性における差異は大半の国で持続しました。これらの知見は、社会経済的背景と成人の社会情動的スキルとの関係には、追加的なメカニズムが関与していることを示唆しています。」(93頁)

親の教育達成度による社会情動的スキルの差は、高年齢層でより顕著になる傾向がある

「開放性と外向性の領域では、45~65歳層において社会経済的差異がより顕著になる傾向があります。開放性の領域では、この年齢層においてすべての国で有意な社会経済的差異が認められる一方、16~24歳層では大半の国・経済圏で差異が小さいか、または有意ではありません。例外として、カナダ、イングランド(英国)、ドイツ、ハンガリー、イスラエル、ラトビア、リトアニア、スロバキア共和国が挙げられ、これらの国では若年成人層における開放性の社会経済的差異が、高齢者層と同等か、それ以上に大きくなっています。外向性の領域では、高齢層において親の教育達成度による差異がほとんどの国・経済圏で観察される一方、若年成人層で同様の差異が確認されるのは、クロアチア、デンマーク、フィンランド、リトアニア、ノルウェー、スロバキア共和国に限られています。」(93頁)

「ファセットレベルでのさらなる分析により、ビッグファイブのほとんどのファセットにおいて、顕著な社会経済的差異が明らかになりました(図4.8)。データが利用可能なOECD諸国全体で平均すると、高い教育達成度の親を持つ成人は、低い教育達成度の背景を持つ同世代と比較して、開放性の3つのファセットにおいてより高い水準を示しています。最も大きな差異は、美的感受性と知的好奇心において観察されました。回答者の教育達成度を含む他の要因を調整した後も、これら3つのファセットにおける差異は有意なままです。」(95頁)

「外向性の領域では、自己主張においてより大きな社会経済的格差が観察される一方で、親の教育水準が高い成人と低い成人との間で、社交性については有意な差は見られません。勤勉性の領域では、親の教育水準が低い人々が、平均的に組織性、生産性、責任感においてより高いスコアを示しています。一方、情緒安定性の領域では、このグループは、教育水準の高い家庭の同世代と比較して、平均的に低いスコアを示しています。協調性については、信頼性においてのみ両グループ間に有意な差が認められ、恵まれない背景を持つ成人の平均スコアがやや高くなっています。」(95頁)

「一部の国では、集計されたパターンから外れる結果が見られます(別添A)。スペインでは、高い教育達成度の親を持つ成人が、恵まれない背景を持つ成人よりも、信頼性において平均的に高いスコアを示しました。チリ、クロアチア、イタリア、スロバキア共和国では、勤勉性の各側面における社会経済的差異は統計的に有意ではありませんでした。ニュージーランドとポルトガルでは、自己主張性の差は有意ではありません。一方、チリでは、親の教育水準が低い成人のエネルギーレベルが平均的に高くなっています。社交性については、チェコ共和国では親の教育水準が低い成人の平均スコアが高く、クロアチア、エストニア、ノルウェーでは親の教育水準が高い成人のスコアが高くなっています。」(96頁)

ここでいったん切ります。

所感

一般的な傾向として、下記のことが書かれています。

「より恵まれた背景を持つ子どもは、読解力、数学、科学の成績が優れており、より高いレベルの教育を受けて修了し、より良い健康状態を享受し、より高い幸福度を報告する傾向があります。」

「恵まれた背景を持つ成人は、高いリテラシーと数的能力、より高い教育達成度、より良い身体的・精神的健康状態、そして労働市場におけるより大きな成功を享受する傾向があります。」

「高い社会経済的地位を持つ親が、通常、子どもに対してより良い物質的資源、より大きな支援、より豊かな環境を提供できることに起因するとされています。」

「経済的・社会的・文化的地位が高い生徒は、好奇心、寛容性、創造性、責任感、自制心、持続性、達成意欲、社交性、自己主張力、活力、共感力、信頼感、ストレス耐性、楽観性、感情制御など、評価対象となったすべての社会情動的スキルにおいて、恵まれない背景を持つ生徒と比較して高い水準を示しています。」

しかし、これらはあくまで一般的な傾向であって、背景(バックグラウンド)に恵まれない子どもの中にも下記の能力が高い子はたくさんいるでしょうし、逆に恵まれた背景を持っていても下記の能力が低い子もたくさんいることでしょう。

上記とともに、親の教育達成度(educational attainment、どの段階の学校まで進んだか)は勤勉性とは関連していないということが指摘されています。適切な社会的・教育的支援を与えることで、背景に恵まれない子どもがその勤勉性を発揮して上記の能力を伸ばしていくことが期待できるのだと思います。

次回に続きます。

元塾 藤本豪