前回に続き、2025年10月に出たOECDのSkills that Matter for Success and Well‑being in Adulthood(成人期の成功とウェルビーイングにとって重要なスキル)という報告書(「本報告書」)について紹介します。
今回は、「社会情動的スキルとは何か、なぜ重要なのか?」という章に書かれた内容の紹介です。

社会情動的スキルとは何か、なぜ重要なのか?
以下では、本報告書の「社会情動的スキルとは何か、なぜ重要なのか?」という章に書かれた内容のうち、特に興味深いと思ったものを紹介していきます。
リンク:
OECD (2025), Skills that Matter for Success and Well-being in Adulthood: Evidence on Adults' Social and Emotional Skills from the
2023 Survey of Adult Skills, OECD Skills Studies, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/6e318286-en.
原著作と翻訳の間に相違がある場合、原著作の文言のみが有効とみなされます。
「認知能力に加え、社会情動的スキルは個人の能力構成において重要な要素です。自制心(self-control)、社交性(sociability)、感情調節(emotional regulation)といった能力は、職場や日常生活におけるさまざまな状況を乗り切るために不可欠です。こうしたスキルは、人生の重要な成果に著しい影響を与える(significantly influence key life outcomes)ことが示されています。膨大な証拠が、これらのスキルと学業成績の向上、高等教育の達成、労働市場における見通しの改善(より良い雇用機会や高い賃金を含みます)との関連性を示しています。さらに、身体的・精神的健康、主観的幸福感、社会的・政治的参加といった重要な非経済的成果も予測します。場合によっては、これらの関連性の強さは認知能力と同等です。」(10頁)
「将来、社会情動的スキルは個人と社会にとってより重要になるでしょう。人工知能(AI)技術が進歩し、ますます多くの認知能力において人間を凌駕するにつれ、機械では遂行できないタスクを実行する上で、社会情動的スキルが重要な優位性を構成するようになります。人口の高齢化と高齢者ケア需要の増加に伴い、共感力、忍耐力、コミュニケーション能力といったスキルが求められるようになります。国際的な移住がコミュニティや社会の多様化を続ける中、社会的結束と民主主義の機能には、寛容さ、協力、そして開かれた姿勢が不可欠となります。さらに、気候危機には革新的な解決策が求められ、それには想像力と適応力が不可欠です。」(10頁)
「今日の世界は多様でダイナミック、そして不確実であり、未来はさらに複雑になる可能性が高いです。こうした状況下では、変化を乗り切り新たな状況に適応するために、社会情動的スキルが重要となります。情緒的安定性や好奇心といったスキルは柔軟な思考を育み、新たな状況への建設的な対応を支える一方で、共感力やコミュニケーション能力といったスキルは、困難な時期においても良好な人間関係を維持することを可能にします。以下のセクションでは、社会情動的スキルが、技術革新、人口高齢化、グローバルな移住といった具体的な課題に個人や社会が適応する上で、どのように支援し得るかを論じます。」(11頁)
「AIの進歩は広範かつ急速な変革を推進しています。他の技術と比較して、AIはより広範な人間のタスクに適用可能であり、多額の投資と研究により急速に進化しています。一部の職種では、従来人間が行っていた特定のルーチン作業や認知タスクを機械が引き継ぐ可能性があります。より広範には、AIは仕事の組織化と遂行方法を変革し、労働者に新たな役割への適応、知能システムとの協働、異なるスキルセットの開発を求めることになります。」(11頁)
「進化するAIが雇用に与える影響は、AIの能力が職業に関連する人間のスキルとどのように比較されるかに依存します。過去10年間で、AIは人間と比較して、さまざまな認知タスクにおいて高速化、偏りの低減、精度向上を実現してきました。これには、言語処理・生成、翻訳、推論、画像・音声認識、予測、パターン識別などが含まれます。将来に想定されるシナリオの一つとして、AIがルーチン業務や分析業務を引き継ぐ一方で、仕事はより高度な認知能力や社会情動的スキルを要する業務へと移行していく可能性があります。具体的には、労働者は交渉、影響力行使、コミュニケーション、説得といった業務に特化する傾向が強まる一方で、機械は予測、自動化された報告、品質管理などの業務において人間を補完するようになるでしょう。」(11頁)
「社会情動的スキルは、AIの革新可能性を促進する触媒としての役割を果たし得ます。AIの新たな潜在的用途の発見は、最終的には人間の創造性、批判的思考、知的好奇心に依存します。さらに、革新は個人や組織間の相互作用を通じて生まれるため、コミュニケーションに関連する社会情動的スキルは、より重要になるでしょう。経験への開放性や多様な視点を取り入れる能力も、画期的な発見が異なる分野や産業の交差点で生じることが多いため、重要性を増す可能性があります。」(12頁)
「AIが労働の世界をどのように再構築するかは、いまだ未解決の課題です。確かなのは、労働者が新たな状況に適応する必要があるという点です。これには、AI関連スキルの習得や、全く新しい職種に向けた再スキル化が含まれる可能性があります。こうした変化を成功裏に乗り切るには、再び確固たる社会情動的スキル、特に強靭性(resilience)、情緒的安定性、学習意欲が求められます。」(12頁)
「高齢労働者の退職年齢が後になる傾向が強まることで、成人のスキルアップや再スキル化の必要性が高まります。政府は、現在および将来の労働市場の需要に対応するため、生涯学習と継続教育の機会を拡大する必要があります。高齢労働者は、労働市場で競争力を維持するために、スキル向上と新たな技能習得が必要となります。この文脈では、社会情動的スキルが重要となります。特に、強靭性(resilience)、情緒的安定性、経験への開放性は、高齢労働者が職業の変容する要求に適応する上での支えとなります。」(12頁)
「同時に、高齢者ケアの需要増加は、共感力、忍耐力、寛容性、対人コミュニケーションといった社会情動的スキルの需要を直接的に高めます。こうしたスキルは、介護者だけでなく、人口構成上多様化した社会における社会的結束を育むため、社会全体にとって不可欠となります。一方で、高齢者が社会の一員として活動し続けるためには、回復力、外向性、経験への開放性といったスキルが必要です。」(12頁)
「過去数十年間にわたり、大半のOECD諸国への移民は増加しており、世界的な紛争、人道危機、経済的・生態的アンバランスにより、今後もさらに増加する可能性があります。これは受け入れ国にとって、課題と機会の両方をもたらします。移民は文化的・経済的にコミュニティを多様化させ、社会的結束や社会的信頼に挑戦を突きつけますが、同時に、受け入れ国における労働力の供給を増やし、経済成長に寄与し得ます。その前提条件として、移民が受け入れ国の労働市場と社会に完全に参加できる高度な技能を有していることが挙げられます。こうした技能には、現地語の知識や現地労働市場で求められる技能が含まれます。開放性、敬意、他者への信頼、社交性、視点を取り入れる力といった社会情動的スキルも、新たな社会への統合には不可欠です。これらのスキルは、多様化する人口における結束を維持するため、社会全体においても、ますます重要となるでしょう。」(12頁)
長くなったので、今回はここで切ります。
所感
「自制心(self-control)、社交性(sociability)、感情調節(emotional regulation)といった能力は、職場や日常生活におけるさまざまな状況を乗り切るために不可欠です。こうしたスキルは、人生の重要な成果に著しい影響を与える(significantly influence key life outcomes)ことが示されています。」と書かれています。
そしてさらに、「AI革命」(AI Revolution)、高齢化、移民の増加によって、社会情動的スキルは、ますます重要になっているとのことです。AIと人間の仕事との関係については、人間の仕事は今後、「交渉、影響力行使、コミュニケーション、説得といった業務に特化する傾向が強まる」可能性があるとの予想が示されています。また、AIを使いこなすという面でも、社会情動的スキルは重要とのことです。
次回に続きます。
元塾 藤本豪


