前回に続き、OECDのEducation Policy Outlook 2025(「本報告書」)の中で特に興味深いと感じた内容を紹介します。

今回は、幼児期の教育についてです。(長くなったので、今回と次回の2回に分けます。)

幼児期(0-6歳)の教育

リンク:

https://www.oecd.org/en/publications/education-policy-outlook-2025_c3f402ba-en.html

OECD (2025), Education Policy Outlook 2025: Nurturing Engaged and Resilient Lifelong Learners in a World of Digital Transformation, OECD Publishing, Paris,
https://doi.org/10.1787/c3f402ba-en.
原著作と翻訳の間に相違がある場合、原著作の文言のみが有効とみなされます。

以下では、人生における教育上の4つの重大な節目のそれぞれについて、本報告書の内容を紹介していきます。

人生における教育上の4つの重大な節目のうち幼児期の教育について、本報告書は次のとおり述べています。

「生涯学習を始動させる最も効果的な方法の一つは、全ての子供が高品質な幼児教育・保育(ECEC: high-quality early childhood education and care)を受けられるようにすることです。この幼児期は、好奇心、自己調整力、社会情緒的スキルといった基盤を築く時期であり、これらは将来の学習への関与を強く予測する特性です。」(18頁)

「過去10年間で、多くのOECD加盟国・経済圏において幼児教育・保育(ECEC)への就園率が大幅に上昇したものの、格差は依然として存在します。3~5歳児の85%が幼児教育を受けている一方で、0~2歳児の就園率は29%と依然として低く、社会経済的に不利な立場にある子どもたちは一貫して就園率が低く、質の高い教育を受ける機会も少ないままです(OECD, 2025)。こうした格差は重要な問題です。なぜなら、質の高いECECは、特に脆弱な立場にある子どもたちに強い効果をもたらし、その後の学業成績に持続的な影響を与える、初期のスキル構築において最も費用対効果の高い手段の一つだからです。」(18頁)

「幼児期は生涯学習の基盤です。この時期に、好奇心、粘り強さ、内発的動機付け、自己調整といった生涯にわたる学習能力を支える素養が育まれます(Brooker, 2011)。 質の高い幼児期教育・保育(ECEC)は、短期的・長期的にわたり子どもの認知的・社会情緒的スキルを強化し、特に脆弱な背景を持つ子どもに顕著な効果をもたらすことが一貫して実証されています。これらの特性はすべて、将来の学業的成功と学習への関与を強く予測する因子です(Hirsh-Pasek et al., 2008)。」(23頁)

「遊びや体験に基づく学習、感情調節の支援、社会的・情緒的・認知的スキルの意図的な育成といったアプローチは、いずれも生涯にわたる学習成果の向上に寄与します(OECD, 2025)。OECDの「幼児期学習と子どものウェルビーイング」調査(2020年)は、イングランド(英国)、エストニア、米国で実施され、社会情緒的スキル(学習意欲に関連)が、社会経済的地位を調整した後でも、識字スコアの変動の約3分の1を説明することを明らかにしました。PISA 2022のデータも、就学前教育に少なくとも1年間通ったと報告した15歳は、生徒や学校の社会経済的プロフィールを考慮した後でも、通わなかった同年代の生徒に比べて数学の成績が優れていることを示しています。」(24頁)

「現代の子どもたちは、幼い頃からデジタル環境に浸る機会が増えています。技術は適切に活用されれば、教育コンテンツへのアクセスや適切な大人の監督下での双方向体験を提供し、早期学習を支援できます。しかし、デジタル利用が過度または監督なしに行われるとリスクが生じ、社会的交流や遊びの機会を減らし、睡眠や感情調節にさえ影響を及ぼす可能性があります。 いわゆる『教育用』デジタルリソースの多くは、確固たる評価や教育学的根拠を欠いています(OECD, 2023)。したがって、テクノロジーが探求・遊び・人間交流を補完するものであり、代替しないことを保証するには、大人の指導が極めて重要です。」(24頁)

「長期的な効果を最大化するためには、政策立案者は幼児教育・保育(ECEC)における子どもの経験と、その経験を支えるシステムの両方を強化しなければなりません。その第一歩は、学習への意欲・スキル・手段をカリキュラム枠組みに直接組み込み、実践において社会的・情緒的スキルをいかに育成すべきかを明示することです。職員の継続的な専門能力開発、メンタリング、内省的実践のための時間確保が不可欠です。子どもの最初の学習パートナーである家族を支援することも重要です。より強力なアウトリーチ、ガイダンス、セクター横断的な支援は、保護者が家庭で育成的な学習環境を構築する助けとなります。デジタルツールが普及する中、政策立案者は明確な期待と安全対策を定め、技術が社会的交流や探求を補完し、代替しないことを保証しなければなりません。同時に、アクセスの拡大には、普遍的な提供と最もリスクの高い層を対象とした対策のバランスが求められます。」(25頁)

所感

「幼児期は生涯学習の基盤です。この時期に、好奇心、粘り強さ、内発的動機付け、自己調整といった生涯にわたる学習能力を支える素養が育まれます。」「遊びや体験に基づく学習、感情調節の支援、社会的・情緒的・認知的スキルの意図的な育成といったアプローチは、いずれも生涯にわたる学習成果の向上に寄与します」という部分が特に重要と思いました。

それにしても、0~2歳児の就園率まで問題とされているのですね。

『教育用』デジタルリソースに対しては、否定的な感じで書かれています。もっとも、次回ご紹介する部分には、「デジタルツールの使用は、子どもの学習プロセスを支援し、すべての児童のために豊かで多様な学習環境を創出します。」という記述があるので、本報告書が幼少期のデジタルツール利用について全く否定的というわけではありません。

次回に続きます。

元塾 藤本豪