前回の続きです。
今回から、OECDのEducation Policy Outlook 2025(「本報告書」)の中で特に興味深いと感じた内容を紹介します。

生涯学習の必要性と教育の位置づけ
本報告書のEditorial(編集後記)において、アンドレアス・シュライヒャー氏(OECD事務総長特別顧問(教育政策担当)、教育・技能局長)は、以下のとおり述べています。(少し長いですが、とても興味深い内容と思いますので、全訳します。)
リンク:
https://www.oecd.org/en/publications/education-policy-outlook-2025_c3f402ba-en.html
OECD (2025), Education Policy Outlook 2025: Nurturing Engaged and Resilient Lifelong Learners in a World of Digital Transformation, OECD Publishing, Paris,
https://doi.org/10.1787/c3f402ba-en.
原著作と翻訳の間に相違がある場合、原著作の文言のみが有効とみなされます。
「現代の学びは年齢の問題ではなく、どれだけ自らを成長させられるかです。「一生懸命勉強し、就職し、静かに引退する」(“study hard, get a job, retire quietly”)という古いシナリオは、もはや通用しません。私たちはより長く生き、スマートフォンでアプリを切り替えるようにキャリアを変え、教育システムの再起動よりも速い速度で(faster than our education systems can reboot)「知識」の定義を再構築する技術と向き合っています。教育はもはや最初の就職のための踏み台であってはなりません。それは人生全体のオペレーティングシステムとなる必要があります。あらゆる移行、あらゆる再創造、学校から職場への飛躍、キャリア間の移行、育児や介護の時期(caregiving spells)、人員整理(layoffs)、そして人生の後半期に至るまで、あらゆる局面を支える力となるのです。」
「これは興奮と不安を同時に呼び起こすものです。学習者、雇用主、政府の全てが、学びの本質を再考することを迫られます。周囲の環境が変化する中で常に新たな方法で学び続けねばならない個人には、より強い好奇心、より高い自己規律、より確固たる自信が求められます。そして、人生の様々な段階にある人々の状況に応じた学習環境——学校、職場、コミュニティセンター、オンラインプラットフォーム——が不可欠です。そして政府には、資金調達・評価・品質保証の信頼できる基盤を構築することが求められます。これにより、安定した職に就いている人だけでなく、すべての人にとって機会が現実のものとなるのです。これらの要素が組み合わさった時、生涯学習はスローガンではなく、生きた現実へと変わり始めるのです。」
「OECDのEducation Policy Outlook(教育政策展望)によれば、私たちの学習意欲は固定されたものではなく、進化するものです。幼児期は好奇心が芽生え、自己調整能力が育まれる時期です。青年期は、アイデンティティ、動機付け、主体性が形作られる時期です。中盤のキャリアは岐路に立たされます。再創造が不可欠となるまさにその時に、スキルが頭打ちになる可能性があるのです。そして、人生の後半も重要です。つながり、貢献、目的意識——これらすべては、学びへの継続的なアクセスに依存しています。賢明な政策は、これらの転換点を強化し、生涯にわたって持続する思考習慣を形作ります。」
「では、今日の教育システムは、人々を生涯学習者として準備できているのでしょうか?証拠はこう示しています:まだです。あまりにも多くの若者が、現代社会に対応する準備が不十分なまま学校を卒業しています。PISA 2022が痛切に示している通りです。OECD成人技能調査(PIAAC)が示すように、成人のスキルは停滞あるいは低下傾向にあります。確かに、学校の改善は不可欠です。しかし、それだけではもはや十分ではありません。成人学習を断片的な立ち寄りポイント(pit stops)の連続として扱うのを止め、機会への滑らかで通行可能な高速道路(navigable highways)を構築し始める必要があります。それは、一貫性のある学習経路、持ち運び可能なスキル(portable skills)、そして教室であれ職場であれ、あるいは社会の周縁で生きてきた経験であれ、大人が既に持つ経験を評価する認定システム(recognition systems)を意味します。」
「この課題は、単に学習機会を増やすことではありません。整合性(アラインメント)が鍵なのです。
- インセンティブの整合性 ― 学習が継続されることで、個人、機関、雇用主のすべてが利益を得られるように。
- リソースの整合性 ― 時間、資金、評価が学習者と共に移動できるように。
- イノベーションの整合性――デジタルツールが人間の可能性を拡大し、アクセスの幅を広げ、信頼を築き、公平性を後退させるのではなく前進させるためのものです。」
「35か国にわたる230以上の政策を分析したOECD『Education Policy Outlook 2025』は、この未来像を示しています:家庭での早期学習を促進する子育てプログラム、青少年の主体性と社会的・情緒的スキルを強化するカリキュラム、 モジュール型資格やマイクロクレデンシャルによる、生活の中断を伴わない大人のスキルアップ;高齢労働者が活動的であり続け、価値を認められ、社会と繋がるための年齢に配慮した研修プログラム。これらが一体となり、「人生で得たスキルは一生もの」(the skills you gain in life are the skills you keep for life)という時代遅れの神話に挑みます。」
「結局のところ、生涯学習を実現するには、その対象となる世界を反映した教育エコシステムが必要です。学習者の主体性を中心に据えたもの。人々の生活に合わせて柔軟に対応するものであって、人々に生活を教育に合わせて無理に調整させるものであってはなりません。なぜなら、誰もがどこでも何でも学べる世界において、真の進歩の価値は、人々が知っていることだけにあるのではなく、学び続ける能力と勇気にあるからです。かつて私たちは仕事をするために学びましたが、今や学びそのものが仕事なのです(We used to learn to do our work, now learning is the work)。」
所感
「一生懸命勉強し、就職し、静かに引退する」という、まさに私(藤本)が学生のとき抱いていた人生のイメージが、はっきりと否定されてしまいました。。。「教育はもはや最初の就職のための踏み台であってはなりません。それは人生全体のオペレーティングシステムとなる必要があります。」とのことです。
また、「人生で得たスキルは一生もの」という考えは、「時代遅れの神話」とまで言われています。そして、「かつて私たちは仕事をするために学びましたが、今や学びそのものが仕事なのです。」という言葉で締め括られています。
ずいぶんと厳しい時代になったものだと思いますが、そのぶん、ワーク・ライフ・バランスが重視されて然るべきですし、学びのかたちも変わっていくべきです。キャリア観も、「スマートフォンでアプリを切り替えるようにキャリアを変え」るというように切り替える必要があるでしょう。人生全体にわたる教育がOS(オペレーティングシステム)、個々のキャリアはアプリという例えですね。
我々は現実に適応して行きていかなければならないのですから、愚痴を言っても仕方有りません。前向きに捉えていきましょう。
しかしそれにしても、「青少年の主体性と社会的・情緒的スキルを強化するカリキュラム」というのは、現在の日本の教育(受験勉強中心の教育)と極めて相性が悪いと思われます。また、「スマートフォンでアプリを切り替えるようにキャリアを変え」ることは、日本の労働関連法令との相性が悪いように思います。日本社会の活力が弱まるのを避けるためには、よほどの工夫と努力が必要であると思われます。
次回に続きます。
元塾 藤本豪


